健康診断という「病」

ストレスチェックで分かるブラック企業 亀田高志 氏

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精神科医が制度導入に反対を表明したわけ

 このストレスチェック制度は、厚生労働省が平成22年前半から「うつ病のスクリーニング」を一般定期健診での医師による診察のときに織り込もうとしたのが始まりです。ちなみにその頃は民主党政権の時代でした。

 当初、「メンタルチェック」と呼ばれ、「疑いあり」との結果を受け取った人は、精神科か精神保健を扱う公共機関に自主的に相談に行くというスキームが想定されていました。

 しかし、会社の健診で肺や心臓の音を聴診されたついでに「うつかどうか」を医師から聞かれるとしたら、嫌だと感じないでしょうか。その上、「うつの疑いがあるから精神科に行って相談してきてください」なんて通知されたら、ちょっとショックですよね。

 当時、こうしたプランに対して精神科医の学会が猛反対しました。その理由の1つには、「5000万人以上いる働く人が全員、うつ病のスクリーニングを受け、仮に5%の人が精密検査となって、250万もの人が精神科のクリニックや病院に押し寄せたら、ただでさえ混雑している外来がパンクしてしまう」という懸念がありました。

 実際に、精神科の外来に受診するのに自ら出向く人は少数派です。家族や職場の関係者が診察を勧め、同行してようやく受診に至ることが少なくありません。それも、不登校や引きこもり、欠勤など、放っておけない日常生活や社会生活の支障が背景にあり、関係者のサポートがあって、ようやく受診につながるのです。

 良心的な精神科医であれば、初診では30分から1時間かけて丁寧に診察してくれます。2回、3回と経過を観察しながら情報収集に努め、病状の変化も見ながら診断をつけていくこともあります。何となく精密検査に来た人を簡単に診る習慣は無いのです。

 定期健診で診察を行う医師のほとんどは精神科が専門ではありません。当初案では定期健診の診察の際に疲労、不安、抑うつについて9つ程度の質問をして判定する程度のものでした。ですから、機械的に「疑いがある」と判定された人が精神科の外来に押し寄せてきてはたまらないと、精神科医たちは警戒したわけです。

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