経済史から考える

所得倍増計画、官僚の洞察力生きる

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

与党の派閥闘争、政策議論を活発に

 その後の経過はよく知られている通りである。岸内閣は日米安全保障条約の改定をめぐる政治的・社会的混乱のために総辞職し、1960年7月に池田内閣が成立、同年12月に池田内閣の下で所得倍増計画が閣議決定された。

 こうした所得倍増計画をめぐる経緯に関して印象深く感じるのは、当時、自民党の中に政策的・政治的な立場を異にする複数の有力な政治家とそれを支えるグループがあって、厳しく対立しつつ政治的な駆け引きを行っており、そのことが自民党と日本の政治全体に活力を与えていた点である。それらのグループは、1990年代の政治改革論議では「派閥」として批判されたが、かつて若き日の渡辺恒雄氏(現・読売新聞グループ本社会長)が著書の中で主張したように、派閥の積極的な意味に改めて目を向けるべきであろう。

 ひるがえって今日の自民党の状況については、2015年9月の総裁選が無投票に終わったことに象徴的に示されている。日本は、経済財政、安全保障、そして憲法など、重要かつ国民の間に深刻な意見対立を伴う課題に直面している。特に野党が弱体化している現在、自民党内の政策論争の役割は大きい。自民党の個々の国会議員、特に有力な国会議員が、池田がそうしたように、これらの基本的な政策に関して真摯で野心的な議論を提起することを期待したい。

岡崎 哲二 著 『経済史から考える』(日本経済新聞出版社、2017年)「第5章 経済成長のための戦略」から
岡崎 哲二(おかざき・てつじ)
東京大学大学院経済学研究科教授

1981年、東京大学経済学部経済学科卒業。86年、同大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。89年、同経済学部助教授、99年、同大学院経済学研究科教授。この間、スタンフォード大学経済学部客員教授(2002、03年)、International Economic History Association(IEHA)副会長(12~15年)、IEHA 会長(15年~)。主な著書:『コア・テキスト 経済史(増補版)』(新世社、16年)『比較制度分析のフロンティア』(青木昌彦・神取道宏との共監修、NTT出版、16年)『通商産業政策史(3)1980-2000産業政策』(経済産業調査会、12年)『生産組織の経済史』(編著、東京大学出版会、05年)『経済史の教訓』(ダイヤモンド社、02年)『取引制度の経済史』(編著、東京大学出版会、01年)『持株会社の歴史』(ちくま新書、1999年)『江戸の市場経済』(講談社、99年)『工業化の軌跡』(読売新聞社、97年)『現代日本経済システムの源流』(編著、日本経済新聞社、93年)など。American Economic Review, Journal of Economic History, Economic History Review, Explorations in Economic History, Financial History Review などに論文多数。

キーワード:経営、イノベーション、ものづくり、経済史、金融、日銀、国債、プライマリーバランス、GDP、マネーストック、異次元緩和、デフレーター、物価

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。