経済史から考える

日本政府債務、深刻度は大戦末期並み 東京大学大学院経済学研究科教授 岡崎 哲二氏

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消費増税、構造改革...繰り返す先送り

 安倍内閣が行った重要な施策として、国民に公約した消費税の引き上げを2度にわたって延期したことが挙げられる。2014年11月18日、安倍首相は記者会見を開き、12年の社会保障・税一体改革法に基づいて15年10月に予定されていた消費税率の8%から10%への引き上げを18ヵ月間延期すること、およびその考えについて国民に信を問うために、21日に衆議院を解散することを表明した。

 社会保障・税一体改革法と、そのもとになった民主・自民・公明の3党合意の前提になっているのは、消費税率の段階的な引き上げは、先進国で最大の政府債務を抱え、毎年度多額のプライマリー・バランス(国債費を除いた基礎的財政収支)の赤字を続けている日本の財政構造を立て直し、財政破綻を回避するために、避けて通ることができないという認識である。この認識自体は、今回の会見においても継承されている。

 それにもかかわらず、消費税率引き上げを延期する理由として安倍首相は、2014年4月に行われた8%への消費税率引き上げが4月以降、個人消費を減退させており、引き続いて来年10月に消費税率を引き上げることは、再び個人消費を押し下げて、いわゆる「アベノミクス」によって進めてきたデフレ脱却を危うくする恐れがあることを挙げた。そして、政策効果によって景気を回復させ、17年4月までに消費税率を引き上げられる環境を整えることを強調した。そしてこの公約も16年6月に撤回され、消費税の引き上げは再度延期された。

 消費税率の引き上げだけでなく、国民ないしその一部の負担を増加させる改革は、一般に先送りされる傾向がある。この現象は日本でも顕著に観察される。実際、1990年代以降、日本経済が経験してきた困難な諸問題、すなわち銀行の不良債権処理の遅れによる金融危機と不況の長期化、そして現在われわれが直面している巨額の政府債務自体も、その主な原因の一つはこうした改革の先送りにあった。

 1980年代後半の「バブル」とその後の長期不況について経済学・政治学の視点から総合的に検証した研究プロジェクト(村松岐夫・奥野正寛編『平成バブルの研究』上・下、東洋経済新報社、2002年)において、東京大学の井堀利宏氏は、改革の先送りが生じるメカニズムを経済学的に説明している。

 ある国で改革を実施するかどうかは、改革を行わず現状維持をした場合の経済状態と、改革を行った場合の経済状態の相対的関係についての認識によって決まる。そして改革を行った場合の経済状態は、改革による利益と改革に伴うコストの相対的関係によって決まると考えられる。

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