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「リニア談合」の本質と独禁法コンプライアンス 本当に「日本社会が腐る」のか 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原信郎

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競争の要素・手段をめぐる問題

 次に、そもそも市場での競争とは、いかなる手段で、いかなる要素をめぐって行われるものなのか、という「競争」に内在する問題がある。市場での競争というのは、品質・価値が高い商品・サービスを、安価に提供することをめぐるものである。競争上の優劣は「価格」と「品質・価値」の相関関係で決まる。

 既に存在する商品を調達して供給する場合や、供給する商品・サービスの内容が規格・仕様などで定められている場合など、品質に差がないことが前提になっている場合は、競争の要素となるのは基本的に価格である。

 しかし、需要者側が取引先を選択する時点で提供する商品・サービスの具体的内容が不確定で、取引先事業者の技術的能力、知的創造性などによって品質・価値が異なってくるような場合には、価格による競争の程度は相対的に低くなる。このような場合には、高い品質・価値を実現できる能力をどのように評価判断するかが重要となる。

 需要者側が、このような評価判断をする能力と情報を持ち合わせていれば、価格だけでなくその点も含めて総合的に評価して取引先を選択することになる。業者側に「技術提案」を求め、技術提案の内容と価格の総合評価によって取引先を選択するという方法がとられることもある。問題は、需要者側にそのような能力・情報がない場合である。その点を評価する能力・情報を持っているのは、一般的には受注業者側だ。

 商品・サービスの中身・性格によって、「競争」をめぐる関係は様々だ。価格に関する競争制限のように見える行為が、実は、品質・価値という面での競争を促進する場合もある。事業者の経済活動を、競争という観点から評価することは一般的には決して容易なことではない。

 こうした中で、従来から、独禁法違反の摘発の対象になってきたのは、価格競争を制限する行為であった。品質・価値に関する競争は複雑・多様であり、競争制限も単純化しにくいからである。独禁法運用において、消費者運動と独禁法の関連が深かった歴史的な経緯から、「公正かつ自由な競争」より「一般消費者の利益」が重視される傾向が強い日本では、特に、独禁法の摘発が「価格面の競争制限」に偏る傾向があった。『独占禁止法の日本的構造』(清文社、2004年)にも詳述しているので、こちらも参考にしてほしい。

「不当な取引制限」とは

 複数の事業者間で、価格引き上げについて具体的な合意を行う「価格カルテル」は不当な取引制限」に該当する典型的な独禁法違反行為である。

 市場での競争は、価格と品質・価値の相関関係によるものであるが、その中の、品質面での差別化がしにくく、価格面の競争が中心となる場合、つまり、競争関係が価格面に単純化できる場合には、価格カルテルが競争制限の有力な手段となる。

 例えば、日本で、独禁法という法律を初めて世に知らしめることになった、1970年代の「石油カルテル事件」というのは、石油元売り各社が、中東情勢の緊迫化に伴う原油価格上昇を受けて、石油製品の価格の引き上げを合意したものだった。石油製品は製品の差別化が困難な商品であり、競争手段は基本的に価格競争にならざるを得ない。そこでの価格カルテルが「不当な取引制限」として独禁法違反に問われたのである。

「不当な取引制限」による入札談合の摘発

「価格カルテル」と並ぶ、「不当な取引制限」の主要な違反類型が「入札談合」だ。

 入札談合が「不当な取引制限」に該当するとされるのも、「価格カルテル」と同様に、「一定の取引分野における競争」を制限する「合意」と捉えられるからだ。そこで違法とされるのは、個々の談合ではなく、「一定の範囲の入札取引」について「談合で受注者を決める合意」だ。

 これまで独禁法違反として摘発されてきた入札談合には、官公庁発注の建設工事に関するものが多い。

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