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「リニア談合」の本質と独禁法コンプライアンス 本当に「日本社会が腐る」のか 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原信郎

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独禁法コンプライアンスの基本的視点

 本コラムでも繰り返し述べているように、コンプライアンスとは、「組織が社会の要請に応えること」である。独禁法は、「公正かつ自由な競争を促進すること」を目的とする法律なのであるから(独禁法1条)、独禁法のコンプライアンスというのは、「組織が公正かつ自由な競争を通して社会の要請に応えること」である。企業が「競争」に関してどのように行動すべきなのかというのが、ここでの問題なのである。

 独禁法に関する「コンプライアンス違反」である独禁法違反行為は、「市場で競争を制限する行為」である。本来、自らの判断と責任で行うべき事業活動を、ほかの競争業者と意思連絡して行うこと、あるいは、ほかの事業者を不当に市場から排除する行為などが、「競争を制限する行為」として独禁法違反とされる。

 その典型的なものが、リニア談合事件でも被疑事実とされている「不当な取引制限」だ。

「不当な取引制限」というのは、事業者が、「共同行為」によって、「相互に事業活動を拘束し」「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ことである。事業者間の共同行為(相互に意思を連絡すること)によって、本来各事業者の判断で自由に行われるべき事業活動が相互に拘束され、「一定の市場の競争制限が生じること」に違法行為の本質がある。

 しかし、問題はその「競争制限」というのが、どのように捉えられ、どのように評価されるべきかだ。市場経済社会における企業活動の根幹とも言うべき「競争」に関しては、複雑かつ微妙な問題が多く存在する。一つの行為が競争を制限するものなのか、促進するものなのか、その評価すら、決して容易ではない面もあるのである。

市場競争促進では解決できない「外部性」という問題

 まず、「外部性」という問題がある。競争は万能ではなく、市場競争を促進することでは解決できない問題が、世の中には確実にあるということだ。

 例えば、「競争」は、「安全」や「環境保護」などとの関係で深刻な問題を生じさせる。競争の激化が、企業の安全に関する対応に影響を与え、重大な事故の発生につながる場合がある。

 私鉄との通勤時間帯の運行時間の短縮をめぐる競争激化に対応するためにJR西がとった「線路の急カーブへの変更」が鉄道史上最悪の事故の一因となった2005年の福知山線脱線事故、旅行業界の競争激化が貸切バス業界の極端な値引きと労働コストの削減につながり、「バス運転手の過労運転」が悲惨な事故を招いた2011年の関越道バス事故などが、「競争」とその外部にある「安全」という社会的価値との相関関係で問題が生じた典型例だ。

 「環境」について言えば、経済社会全体での競争激化がもたらす生産活動の拡大が、二酸化炭素(CO2)、二酸化窒素(NO2)などによる地球環境への深刻な影響を生じさせていることは公知の事実だ。

 このような「外部性」の問題が、競争制限行為を正当化する方向の「主張」として出てくることもある。多くの場合、それによって違反性が否定されることはほとんどないが、「競争を通して社会の要請に応えること」という独禁法コンプライアンスを考える上では重要な視点である。

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