郷原弁護士のコンプライアンス指南塾

日産、神戸製鋼...大企業の不祥事を読み解く(前編) 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原信郎

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

無資格「完成検査」の実質的な不当性は?

 では、「偽装」や「隠ぺい」という「形式的不正」は別にして、無資格完成検査という行為は、実質的にどう評価されるべきだろうか。輸出車については問題なく合法とされることとの関係をどう考えたらよいのだろうか。

 自動車製造における安全管理に関して、事業のプロセスを管理する「事業管理」の考え方と、製造出荷する個々の自動車を管理する「車両管理」の考え方とがあり、日本の道路運送車両法は後者の考え方だが、海外では前者の考え方が一般的のようだ。国土の狭い島国であり、事故による人身損害の危険も大きいという事情を考慮すると、歴史的に、自動車を原則危険なものと捉えて車両の登録と検査を一体のものとする車両管理型がとられてきたことにも、一定の合理性があったと言えるだろう。しかも、重要なことは、この「車両管理型」の規制は、日本の規制当局が、明治以来の自動車の歴史の中で一貫してとってきたものであり、組織の根幹にもかかわるということだ。

 しかし、そのような車両管理型に基づく国交省の規制も、自動車産業の発展に伴い、製造現場の実情と次第にかい離しつつあったことは間違いない。特に今後、EV化、自動運転化など自動車の進化の方向性を考えると、一台ごとの完成検査という制度の今後の見直しは不可避であろう。国交省側にも、そのような認識があったからこそ、検査員の資格を自動車メーカー側の判断による社内認定に委ねていたのであろう。

 ところが、日産側の対応は、抜き打ちの立入検査を受けても、あまり危機感がなかったようだ。当局が重要視する完成検査の実施に関して、法令を蔑ろにしたようにも見える対応だった。それが国交省の面子をつぶし、怒りを買うことにつながった。

 自動車メーカー側としては、現場での無資格検査が現場で横行していることを会社の上層部が把握できていれば、「偽装」は直ちにやめさせていたであろうし、検査員の資格の社内認定のレベルを調整するなどして、実態に適合させる措置をとることは可能だったと考えられる。またそういう意味で日産にとっては、国交省が絶対に容認できない無資格の完成検査が「カビ型」として潜在化した実態が把握できなかったところに根本的な問題があった。

 次回は、同様の観点から神戸製鋼所のデータ改ざんの問題を取り上げる。

郷原 信郎(ごうはら のぶお)
郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士
1955年島根県松江市生まれ。1977年東京大学理学部卒業。1983年検事任官。公正取引委員会事務局審査部付検事、東京地検検事、広島地検特別刑事部長、法務省法務総合研究所研究官、長崎地検次席検事などを経て2003年から桐蔭横浜大学大学院特任教授を兼任。2004年法務省法務総合研究所総括研究官兼教官。2005年桐蔭横浜大学法科大学院教授、コンプライアンス研究センター長。2006年検事退官。2008年郷原総合法律事務所(現郷原総合コンプライアンス法律事務所)開設。2009年総務省顧問・コンプライアンス室長。2012年 関西大学特任教授。2014年関西大学客員教授。現在、公職として、国土交通省公正入札調査会議委員、経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会安全小委員会委員、横浜市コンプライアンス外部委員を務めている。

キーワード:経営、CSR、環境問題、グローバル化、働き方改革、経営層

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。