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「カビ型行為」対策の切り札、"問題発掘型アンケート調査" 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原信郎

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 一方で、このような調査の実施を検討したものの、結局実施を見送るというケースも少なくない。

 "問題発掘型アンケート調査"を実施する決断は、ほとんどの場合、経営トップの強い意志によるものである。社内のコンプライアンス担当部門による検討にとどまった場合には、「問題発掘」を目指した調査を行い、その結果を得ることが経営に大きな影響を及ぼす可能性があるだけに、社内での消極論が多数を占め、決定に至らない場合も多い。

問題発掘のためには経営トップの強い意志が不可欠

 経営トップの強い意志によって"問題発掘型アンケート調査"が行われて着実に成果を挙げているのが、福島県の東邦銀行のケースだ。

 3年前、同行主催の講演会で私の話を聞いた頭取が、"問題発掘型アンケート調査"の実施の方針を示された。当初、従来型の行員意識調査が複数行われていることとの関係で、行員の負担を懸念した消極的反応もあったようだが、「現場の実情を端的に把握したい」との頭取の強い意志で実施が決定された。

 実際に調査を行った結果、放置すれば深刻な事態につながりかねない問題も含めて、多数の問題が把握され、ただちに適切な対応が行われた。同行では、その後も毎年、調査が行われ、自由記述では行内の様々な部署・階層から率直な回答が寄せられ、着実に改善策が講じられている。「カビ型問題行為」の把握・対応を超えて、企業としてコンプライアンス対応の質を確実に高めている例だと言える。

 経営者が把握できなかった不正が表面化して重大な不祥事に発展し、企業が社会の信頼を失う事例が多発している状況の下で、企業の組織内で起きていることを把握するための最大限の努力を行うことが企業経営者としての責務だと認識する経営者は確実に増えている。むしろ、そのような責務に目をつぶる経営姿勢について経営責任が問われることになる時代も、遠からず来るように思える。

 社会に信頼され、健全な事業活動を行うという意味でのコンプライアンスは、概念の啓蒙・指導教育から、真の"実践"であるかどうかが試されるステージに移りつつあるのである。

郷原 信郎(ごうはら のぶお)
郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士
1955年島根県松江市生まれ。1977年東京大学理学部卒業。1983年検事任官。公正取引委員会事務局審査部付検事、東京地検検事、広島地検特別刑事部長、法務省法務総合研究所研究官、長崎地検次席検事などを経て2003年から桐蔭横浜大学大学院特任教授を兼任。2004年法務省法務総合研究所総括研究官兼教官。2005年桐蔭横浜大学法科大学院教授、コンプライアンス研究センター長。2006年検事退官。2008年郷原総合法律事務所(現郷原総合コンプライアンス法律事務所)開設。2009年総務省顧問・コンプライアンス室長。2012年 関西大学特任教授。2014年関西大学客員教授。現在、公職として、国土交通省公正入札調査会議委員、経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会安全小委員会委員、横浜市コンプライアンス外部委員を務めている。

キーワード:経営、CSR、環境問題、グローバル化、働き方改革、経営層

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