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「カビ型行為」こそが企業不祥事の「問題の核心」 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原信郎

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 ステンレス鋼管データ捏造事件とは、2008年に、鉄鋼メーカー10社において、日本工業規格(JIS)や業者との契約で定められた水圧試験を行わなかったり、別の水圧試験のデータを提出したりしていたことが発覚した事例である。その根本的な原因は、JISという法令規則が、実態と乖離したまま放置されていたことにあった。

 鋼管溶接技術の進歩により、水圧試験で発見されるようなレベルの不具合は全くと言ってよいほどなくなり、水圧試験を実施する意味がほとんどなくなっていた。にもかかわらず、規格上は「全量水圧検査が必要」とされており、水圧検査データがなければJIS承認を取ることができなかった。そこで、水圧検査を行わずにデータを捏造することが恒常化していた。

ステンレス鋼管データ捏造事件の真相とは

 その後、JISを実態に合わせようとする業界関係者の努力のかいがあって、2004年から「客先の了承を得れば一部だけの抜き取り検査でもよい」こととなり、制度を実態に適合させる方向での改善が行われた。

 ところが、その後も水圧検査が行われることはなく、従前通り、データを捏造する行為が続けられていたのである。これには次のような事情が考えられる。

 2004年以前は、実態は水圧検査を全く行っていなかったが、建前上は全量水圧検査を行ったことにして、捏造したデータで外形を整えていた。2004年の基準改正に伴い、「抜き取り検査」が許容されることとなった時点で、「抜き取り検査」をやろうとした場合、それまで全量水圧検査をやってきたという「建前」を前提にすれば、「全量」から「抜き取り」への変更であれば設備や人員は減らせるということになる。

 しかし、「実態」を前提とすれば、全く行っていなかった水圧検査を一部だけでも行うことになるのだから、設備や人員を増やす必要が出てくる。「建前」を前提とするのと、「実態」を前提とするのとでは、やることの方向性が正反対になってしまうのだ。

 それまでデータ捏造という違法行為を行っていたことが表面化してはならないという暗黙の了解の中で、現場関係者たちは、実態を前提として「設備や人員を増やして抜き取り検査をしよう」とは言い出すことができなかったのだろう。こうして、制度が現場の実態に適合するように改善されたにもかかわらず、根本的な問題解決にはつながらず、「カビ型行為」がはびこったままになったと考えられる。

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