泉田良輔の「新・産業鳥瞰図」

再考、東芝が不正会計に手を出した理由 GFリサーチ 泉田良輔氏

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 とはいえ、東芝の取り組みをすべて否定するつもりはない。たとえば電力事業において、東芝は別の顔を見せている。東芝の電力事業に関連したM&Aは、一言でいえば「買収企業の選定は東芝社内で丁寧に行い、不足する買収資金については外部をうまく活用してきた」といえる。スイスのスマートメーター大手ランディスギアを買収する際には、産業革新機構と連携することで資金調達を進めた。また、実現はしなかったが、仏アレバの送配電部門を売却するというタイミングでも産業革新機構と共同で買収しようとしていた。電力事業に関しては、資金調達に配慮した意思決定をしてきたようだ。

日本企業は「技術はあっても資金が足りず?」

 繰り返すが、インフラ事業において、日本企業がM&Aを通じてグローバルで成長していくためには、継続的に資金が必要となる。ただし、この競争ルールのもとでは、たとえば米ゼネラル・エレクトリック(GE)のように、日本企業より資金調達で優位にある企業が参入してきたり、すでに競合企業として存在したりする場合には劣勢に立たされかねない。

 また、東芝はデバイス事業としてNANDフラッシュメモリーを製造・販売している。前回のコラムで見たように、デバイス事業でも資金調達の優位性が事業の勝敗を決めてきた歴史がある。東芝は原子力と半導体をコア事業としているため、資金調達の競争からは逃れられないということだ。

 現在の日本のテクノロジー企業は、技術において競争優位があっても、資金調達面で優位性に乏しいケースが多い。

 そのような場合、選択肢は2つしかない。徹底的に資金調達力のある財務体質をつくり上げるか、あるいは資金調達の勝負をしないか、のいずれかだ。

 前者については、残念ながら一夜にして世界の主要プレーヤーに肩を並べるだけの財務体質をつくる方法はない。したがって、収益性の高い事業を選別し、時間をかけて財務体質を強化していくしかない。ただ残念なことに、日本企業の多くは「どの事業であればグローバルで競争優位を確立できるか」という選別すら、まだできていないと思う。

 後者(資金調達の勝負をしないという選択)に関しては、英国ARMの買収を決定したソフトバンクの例が当てはまる。ARMは半導体設計におけるパテントやロイヤリティー収入を収益の柱としているため、設備投資のために資金調達をする必要がない。

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 最後に余談だが、東芝が売却を決定した東芝メディカルの医療機器事業も資金が必要な事業である。医療機器事業では、M&Aによって成長を確保するのがグローバル市場における競争のルールだからである。今回売却を決定したことにより、東芝は経営資源の分散を回避できるようになったが、今度は東芝メディカルを取り込むキヤノンが医療機器事業の競争ルールに沿って「資金調達競争」に飛び込むことになる。同時に、国内需要の動向とコストをコントロールしつつ、海外での成長をどれだけ取り込めるか、というかじ取りを迫られるのである。キヤノンの今後の動向にも注目している。


【まとめ】




(1)東芝、ソニー、日立製作所は、ともに国内事業が成長せず苦戦している。リーマンショックから現在までの8年間で、ソニーの単体売上高は半減し、日立製作所も3分の2に減っている(事業売却による売上高減を含む)。国内事業の不振は財務体質を弱め、資金調達にも悪影響を及ぼす。
(2)そのため、国内事業で苦戦している日本のグローバル企業は、「国内事業として何を残し、海外でどんな企業を買収するか」という事業ポートフォリオをより注意深く検討する必要がある。
(3)日本のテクノロジー企業は、技術面で競争優位があっても、資金調達面で優位性に乏しいケースが多い。東芝の原子力事業や半導体事業も「設備投資や建設前の資金調達がカギとなる事業」であり、財務体質が強くない企業が継続的に取り組み続けられる事業ではない。前回のコラムで取り上げたシャープの液晶パネル事業とも共通する課題だ。
泉田良輔 (いずみだ りょうすけ)
 GFリサーチ代表。個人投資家のための金融経済メディアLongine(ロンジン)編集長、および株1(カブワン)投信1(トウシンワン)の監修も務める。それ以前はフィデリティ投信・調査部にて日本のテクノロジーセクターの証券アナリスト、日本生命・国際投資部では外国株式運用のファンドマネージャーとして従事。慶応義塾大学大学院卒。著書に『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』。東京工業大学大学院非常勤講師。

キーワード:経営、企画、技術、製造、経営層、営業、管理職、プレーヤー、経営、イノベーション、国際情勢

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