泉田良輔の「新・産業鳥瞰図」

トヨタは大丈夫か、自動車産業の「弱点」を狙うイノベーター GFリサーチ 泉田良輔氏

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 したがって、既存プレーヤーが採るべき戦略は、イノベーターが模倣しにくい要素で既存のバリューチェーンを複雑化することになるはずだ。そして、規制などに関係する重要な企業をあらかじめ取り込んでおくということになる。上場企業であれば、イノベーターに買収されないようにバリュエーション(事業の経済性評価)や時価総額を高めておくという対応策もあるだろう。

複数の事業領域にまたがる第3象限の戦い

 さて、さらに時間が経過したとき、たとえば20~30年後はどうであろうか。競争環境は現在の自動車メーカーの事業領域を超え、ICT(情報通信技術)や自動車の動力源となるエネルギー調達の要素を組み合わせた複雑かつ広範囲な領域で繰り広げられる可能性が高いと考えている。この仮説が正しければ、安価で安全な電気自動車や燃料電池車を製造できる、という競争優位があるだけでは不十分である。日本の大手自動車メーカーにいるトップクラスのエンジニアの中には、「現在の燃費競争から脱却し、将来の自動車を運用するシステムの安全性を担保できなければ、自動車の価格は鉄とそのほかの材料の値段にまで下がる」とまで危惧する者もいる。

 まさに第3象限は、第2象限のハードウェアの安全性を競う領域からシフトし、「都市インフラ内で、より安全になった自動車をどのように効率的に運用できるか」で競争優位が決定される。

 たとえば、次々世代自動車のデザインはエネルギー供給をどのようにするのかで決まるであろう。もし道路に非接触の電力伝送インフラを準備できれば、電気自動車は走りながら電力供給を受けることができ、最低限のバッテリーを積めばよいことになる。仮にこうした電力供給が実現可能なのであれば、自動車メーカーや電機メーカーがバッテリー工場を大規模に展開することはリスクとなる。むしろ、エネルギーを直接調達し、発電した電力を供給できるようにするか、電力会社を持っている方がより事業機会が広がるともいえる。

 また、ハードウェアが有線か無線を問わずネットワークにつながれば、ハードウェアの機能はネットワークの先のアプリケーションに依存する割合が大きくなる。アプリケーションのプラットフォームやアプリケーションを活用するサービスが、自動車を運用するシステム全体の競争優位を決定する要因となる。これはアップルがiPhoneにおけるハードウェアのユーザーインターフェースにこだわるだけでなく、コンテンツプラットフォームであるiTunes StoreやアプリケーションプラットフォームであるApp Storeを組み合わせてノキアを退けたことからも想像に難くない。

 第3象限でもう1点、重要なポイントがある。それはセキュリティーである。第2象限では安全性の重要性を指摘した。安全性とは運転者や歩行者に対する被害をなくす、あるいは低減するのがポイントである。第3象限においては、安全性に加えてセキュリティーが重要となる。次々世代自動車がネットワークに接続されることにより、ハッキングを含めて悪意のある第三者からの攻撃を防ぐ必要がある。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。