泉田良輔の「新・産業鳥瞰図」

トヨタは大丈夫か、自動車産業の「弱点」を狙うイノベーター GFリサーチ 泉田良輔氏

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 余談ながら、日本の電子部品メーカーは、他の製造業と比べ利益率が高いことで知られている。加えて、バランスシートに多くのキャッシュを蓄えているため、株主からの配当要求も強い。しかし、上図のように大手スマートフォンメーカーのバリューチェーンにひとたび組み入れられれば、増大する資金需要に応じるためにキャッシュポジションは厚めに持たなければならない。これがトレンドとなっている。

 スマートフォンに続く成長領域として、自動車産業向けに事業を拡大させている電子部品メーカーも多い。ただし、先の例のように自動車産業向けの材料や半導体は厚めの在庫水準を求められる。こうしたことから、電子部品メーカーは利益率を高く維持することで、事業規模を拡大するのに十分なキャッシュフローを確保しなければならない。バリューチェーンで結ばれた大手自動車メーカーとのパワーバランスで考えれば、株主の過度の配当要求は電子部品メーカーの事業拡張性や継続性にとってリスクとなり得る。

 ここまで、自動車とスマートフォンのバリューチェーンを見てきたが、やはり最大のポイントはセットメーカーであるアップルの在庫日数の少なさである。アップルは、EMSを活用して組み立てプロセスを完全に外部に任せているため、在庫日数を少なく抑えることに成功している。結果、手元資金が潤沢となり、新製品開発で重要となるキーデバイスを調達するための出資やM&A(合併・買収)が可能となり、競争優位をさらに強化することができるのである。

自動車産業のバリューチェーンに起こり得ること

 自動車産業で考えた場合に、今後バリューチェーンにどのようなことが起きる可能性があるだろうか。ガソリン車から電気自動車になることで、部品点数が3万点から1万点に減るという話がある。部品点数が減ることは、既存のバリューチェーンを攻撃しようとするイノベーターにはチャンスとなる。仮に世界市場を対象とする巨大な自動車産業においても、バリューチェーンが短くなれば、より少ない資金で市場に参入できるようになるからだ。

 また、既存の自動車メーカーはこれまでのバリューチェーンを短期間に切り替えることが難しいが、新規参入する企業の場合、そうしたレガシーのバリューチェーンに必ずしもとらわれる必要がない。イノベーターは、産業構造の変化とともに訪れる「バリューチェーンをデザインできるチャンス」をうかがっている。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。