泉田良輔の「新・産業鳥瞰図」

トヨタは大丈夫か、自動車産業の「弱点」を狙うイノベーター GFリサーチ 泉田良輔氏

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低迷する日本の電機産業と同じ轍を踏むのか

 こうした「競争のルールの変化」に気付くのが遅れたり、軽視したりしてしまったがゆえに、競争力を失ってしまった前例がある。日本の電機産業だ。日本の自動車産業が同じ轍を踏まぬように、電機産業の教訓から学ぶべき点は多い。まずは自動車産業の技術・市場動向とともに、そこに潜むリスクを考えてみたい。

 自動車の運転者の安全性は、これまでもエアバッグや衝突安全ボディーをはじめ、数々の改善が長年重ねられてきた。歩行者の安全性についても、自動車の操作性改善とともに工夫されてきている。

 しかし、いまだ運転者の誤操作による不幸な事故が後を絶たない。ブレーキとアクセルを踏み間違えるような事故だ。こうした事故を防ぐため、スバルのEyeSightをはじめとする「ぶつからない技術」、プリクラッシュ・セーフティー・システム(PCS)が現在普及ステージにある。PCSは運転者が完全にシステムに任せて運転することはできないが、安全な運転を支援するシステムとして活用されている。また、将来普及するであろう「自動運転車」においても、歩行者の安全性を担保する重要なシステムである。

 そのPCSを支えるのは、カメラ(撮像センサー)、ミリ波レーダー、赤外線通信に必要な電子デバイスである。運転者や歩行者の安全性を向上するために、自動車メーカーはデバイスを開発あるいは調達し、それらを組み合わせて自動車に搭載できるシステムに仕上げなければならない。世界中にある先端のデバイスを常にウォッチし、商用利用が可能な状態にあるのか、もしくは近くその可能性があるのかも把握しておかなければならない。さらに、システムに組み込むデバイスについて、生産ラインでの品質保証も必要である。

 自動車産業の競争が技術による差別化とその調達に及ぶ場合には、大手のスマートフォンメーカーが行ったように「製造技術を持つデバイスメーカーへの資金援助」なども行い、技術とデバイス調達を同時に獲得するようなケースも出てくるであろう。実際、スマートフォンの重要なデバイスであるディスプレイパネルは、スマートフォンメーカーが一部パネルメーカーに対して製造装置を貸与する形でパネルを調達した例がある。つまり、技術による競争が進めば、技術の目利きや組み合わせのセンスのほかに、資金調達力が競争優位の確立に必要となってくるはずだ。この資金調達力の重要性を軽視したために、日本の電機産業は世界のデバイス産業で優位性を失った。

 また、内製(キャプティブ)のアナログデバイスが最終製品の競争優位を決定づけていた、いわゆる「ものづくり」で競争優位を確立した時代から、「バリューチェーンをデザインし、資金効率を上げる仕組みが競争優位を確立する事業モデルの時代への流れ」を見誤ったことも、日本の電機産業が苦境に陥った原因である。つまり、日本の電機産業は、世界の競合企業に対して、デバイス単独の競争だけではなく、バリューチェーンをシステムとしてデザインする競争にも敗れたわけである。

 日本の自動車産業も、電機産業と同じ失敗を繰り返すことになるのであろうか。

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