泉田良輔の「新・産業鳥瞰図」

空海、利休、ジョブズ---成功の共通点 GFリサーチ 泉田良輔氏

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 ジョブズは米ゼロックスのパロアルト研究所を訪問した際に、「最初に見せてもらったグラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)に目を奪われてしまったんだ。こんなにすごいものはこれまで目にしたことがないと思ったよ」(※6)と、アイコンを使った画面表示や操作に心を揺さぶられている。そして、「いずれ世界中のコンピューターがこんなふうになると、10分と経たないうちにわかったよ」とも述べ、アイコンを活用したGUIに触れることで、その新しいインターフェースがコンピューターのあり方を大きく変えると直感できていた。

(※6)MOVIE PROJECT編『スティーブ・ジョブズ 1995 ロスト・インタビュー』講談社、p.35、2013年

 このように、空海とジョブズを振り返れば、2人が優秀な編集者だったというだけでなく、文字とアイコンへのこだわりという共通項を見出すことができる。2人の間には千数百年の時間の隔たりがあり、メディアも大きく変わっているが、信者やユーザーを引き寄せる訴求点が変化していないのは興味深い。

「道具(ハードウェア)」で表現する茶の湯の世界観

 さて、利休はどうであろうか。利休も先代から受け継いだ茶の湯に自分の世界観や好みの道具であるハードウェアを組み合わせ、茶の湯のルールを確立した超一流の編集者である。

 その利休の時代に大きく変化したのが墨跡の扱いだ。墨跡を初めて茶席に掛けたのは村田珠光(わび茶を創始したとされる室町時代の茶人)だとされているが、利休以降、茶の湯の道具の第一は墨跡だとされている(※7)。文字や文章、またそれらを掛軸にしたメディアを起点とし、茶席を亭主と客人のコミュニケーションの場へとリデザインしたのである。掛軸のかかっている床をGUIとたとえるなら、ハードウェアにおけるインターフェースを工夫することで新しいユーザーエクスペリエンスを実現したアップルのMacやiPod、iPhoneに通じる。

(※7)千宗屋『茶 利休と今をつなぐ』新潮新書、pp.125-127、2010年

 また、利休による茶の湯というシステムへの道具(ハードウェア)の組み込み方が、アップルと似ていることも指摘しておかなければならない。茶の湯は、道具なしでは成立しない。茶会のコンセプトは道具の組み合わせで表現するものであるし、道具そのものがストーリーを持っていることもある。したがって、道具そのものが自己主張していなければならないし、また他の道具との調和がとれていなければならない。茶の湯というシステムの中では、ハードウェア同士のバランスをとってこそのシステムデザインである。

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