中小企業の「見つめ直す経営」

お菓子工房「手づくりの生産管理」で飛躍~ルポン~ 日本政策金融公庫総合研究所 研究員 長沼 大海氏

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 そんな折、知人に紹介されて専門家による生産管理の指導を受けることになりました。指導事項は、原価管理の体制から厨房内の従業員の動き、設備の活用状況まで多岐にわたり、充実したものでした。商品ごとの原価管理や5Sの効果や実践方法など、参考になる点が多々あったそうです。

 ただし、従業員からは反発の声もありました。例えば、厨房作業に関するものです。従業員の動きを一つ一つ計測し、厨房内の移動を3歩から2歩に減らしたり、右足ではなく左足から出すようにそろえたりといった細かい指導は、効率化のためとはいえ従業員には息苦しかったようです。

手づくりの生産管理

 そこで梶塚社長は、指摘事項をうのみにするのではなく、現場の問題点や従業員の意見を明らかにしながら、自社なりの改善策を探ることにしました。

 まず、厨房内の動線を見直しました。費用をかけずに机や小型設備の配置だけを変え、点在していたラスクの作業場をひとまとめにしたのです。そのうえで、こちらのルートが良いか、あちらが良いかとストップウォッチを片手に全員で相談しながら、作業しやすい動線を探り、厨房の床に白いテープを引いて可視化しました。シンプルな仕掛けですが、無意識のうちにテープが目に入るので、無駄な動きが少なくなり、従業員同士がぶつかることも減ったそうです。

 設備にもできる範囲で手を加えていきました。一例がラスクに蜂蜜を塗る工程です。もともと刷毛で一つ一つ塗っていたこの工程は非効率と考え、蜂蜜の粉末を機械で振りかけるようにしたのですが、味が落ちてしまいました。そこで、蜂蜜をスプレーで吹きつける専用ブースをつくり、手早く塗れるようにしたのです。このブースは従業員の手製で総費用は1万円ですが、今では同社に欠かせない設備の1つとなっています。

 効率を追うだけでなく、従業員が気持ちよく働けるように、そして、要所にはひと手間をかけられるように工程をアレンジした成果は、数字に表れています。ラスクの生産を開始した頃は1日500個が限界だった生産量は、自慢の食感や味を変えることなく、1日4000個にまで増加しました。さらに、3人で行っていた作業を2人で行えるまでに生産効率が向上したといいます。

 効率化してできた余力を生かし、新商品の開発にも取り組んでいます。群馬県産の果物を使った「ぐんますっぴんゼリー」を開発したところ、ラスクに次ぐヒット商品となりました。実は、このゼリーはラスクを焼いたオーブンの余熱を活用して生産しています。地域の食材を使った取り組みを聞きつけた県内の生産農家や食品加工会社から、新商品の開発依頼が舞い込むようになり、現在も新たな商品の開発を進めているそうです。

*  *  *

 同社は新商品のラスクが急成長するなかで、生産方法を見つめ直しました。ライン生産方式や専門家の意見などを取り入れながらも、要所で手間を惜しまずに、型どおりの生産管理を自社に合う形にアレンジしたことが、生産効率の向上につながっています。

 生産管理というと、多額の資金をかけた設備投資が必要で、大企業がする取り組みと思いがちです。しかし、やり方次第では、中小企業にも活用の余地は十分にあるといえるでしょう。

 ※本連載は、日本政策金融公庫総合研究所編『「見つめ直す」経営学―可視化で殻を破った中小企業の事例研究―』(2017年、同友館)の一部を抜粋・再編集したものです。(http://www.doyukan.co.jp/store/item_052842.html
長沼 大海(ながぬま ひろうみ)
日本政策金融公庫総合研究所 研究員。2012年中央大学経済学部卒業後、日本政策金融公庫入庫。四日市支店を経て2016年より総合研究所にて中小企業の経営や景気動向に関する調査・研究に従事。現在は小企業を対象とした景況調査「全国小企業月次動向調査」を担当。

キーワード:経営層、管理職、プレーヤー、経営、企画、技術、人事、人材、ものづくり

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。