中小企業の「見つめ直す経営」

多能化と短時間勤務で接客力向上~お佛壇のやまき~ 日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員 渡辺 綱介氏

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 だとすれば、従業員を多能化し、互いの業務をサポートし合えるようにするのはどうだろう。次の目標が浮かび上がってきました。

 その前段階として、同社では全従業員にヒアリングを行って業務上の無駄や改善点を洗い出し、効率化を図っています。必要なものはデータ化を進めました。例えば、熟練が必要だった墓石の設計業務は、過去の施工例をデータベース化してCADシステムと組み合わせた設計ソフトを開発。簡単な操作で予算と石材からデザインを絞り込んで、誰でもすぐに施工イメージや図面を作成できるようにしました。

販売業務を網羅したマニュアル

販売業務を網羅したマニュアル

 このように効率化を進めたうえで、仏具や仏事の知識から顧客応対例、見積書の作成、レジや墓石設計ソフトの操作、事務用品の収納場所まで、販売に関する業務全般をマニュアルにまとめました。さまざまなケースを想定し、実際の業務で戸惑った点などを踏まえて作業フローで示しています。

 このマニュアルは、全員が入社して3カ月でマスターすることとしました。本部の経理や商品配送を担当する従業員なども例外ではありません。必要に応じて誰もが店頭に立ち、サポートし合える態勢を整えたのです。

チーム単位での評価制度を導入

 あわせて行ったのが、人事評価と報酬の制度の見直しです。従来、個人の成績を報酬に反映する人事評価制度を採っていました。そこにチーム単位で評価する視点を新たに取り入れたのです。

 新たな制度では、残業実績や有給休暇の取得状況、コミュニケーション能力などの個人目標を設ける一方、売上高や粗利益率などは自分が配属となっている店舗単位で評価します。本部の従業員の評価項目には、全店舗の合計売上高や、自発的に店頭に立ったか、といった要素を盛り込んでいます。その結果、進んで店舗をサポートしたり、全社的な視点で改善策を提案したりするようになってきています。

 昇給は、年間の全社売上高をもとに原資を決め、個人の成績評価によって配分します。他方、ボーナスについては、店舗ごとの目標達成度により支給額が決まる制度設計としています。最も高い場合、1人当たり50万円で、原則的に、同じ店舗の従業員は同じ支給額とする仕組みです。短時間勤務者については、勤務時間が正社員の8割であれば支給額も8割となります。

 全従業員の多能化、人事評価制度の見直しなどを経て、同社は、フルタイムか短時間勤務かによらず同じように活躍できる組織に生まれ変わっています。現在、同社ではシニアや子育て中の女性など7人が短時間勤務者として働いています。出産、子育てなどのライフステージによってフルタイムから短時間勤務、短時間勤務からフルタイムへの転換ができる制度を設けたり、70歳までの再雇用制度を設けたりして、経験を積んだ従業員に長く働いてもらえる環境整備も進めています。

 成果は業績にも表れています。浅野さんが社長に就いた当時に約3億円だった売り上げは、約7億円にまで増加しています。

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 同社は、販売力向上のために接客ノウハウの可視化、共有に取り組みました。販売現場を見つめ直したことを契機に社内の課題を明らかにし、従業員の多能化、新たな人事評価制度の導入へと改革を進め、ワーク・ライフ・バランスの取れた職場を実現、厳しい市場環境にも打ち勝てる組織を生み出すことに成功しています。

 ※本連載は、日本政策金融公庫総合研究所編『「見つめ直す」経営学―可視化で殻を破った中小企業の事例研究―』(2017年、同友館)の一部を抜粋・再編集したものです。(http://www.doyukan.co.jp/store/item_052842.html
渡辺 綱介(わたなべ こうすけ)
日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員。2002年東京大学経済学部卒業後、国民生活金融公庫(現・日本政策金融公庫)に入庫。新宿支店、青森支店勤務を経て2010年より総合研究所にて中小企業の経営や景気動向に関する調査・研究に従事。現在は『日本政策金融公庫 調査月報』(https://www.jfc.go.jp/n/findings/tyousa_gttupou.html)の編集担当。論文に、「効率的に付加価値を高める小企業の取り組み」(『日本政策金融公庫論集』第21号、2013年11月)などがある。

キーワード:経営、企画、経理、経営層、人事、人材、営業、マーケティング、管理職、ものづくり

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