中小企業の「見つめ直す経営」

人事制度でデザイナーの理想像示す~マルキンアド~ 日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員 藤田 一郎氏

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 一連の取り組みがマスメディアで取り上げられたこともあり、国内外からさまざまなスキルをもつデザイナーが同社に集まってきました。都会の喧騒を離れ、自然に囲まれながら仕事に没頭できる職場環境も魅力のようでした。

 ただ、良いことばかりではありません。中途入社の従業員が増えてからは、経験や役職などに応じて人事評価基準を見直してきたものの、山田社長一人の目線では評価しきれなくなってきたのです。

目指すは「万能人」

 公平な基準で実績に見合う評価をするのはもちろんですが、何よりも評価に納得してもらえなければ、従業員は離れてしまいます。そこで2013年、同社はこれまでのやり方を一から見直し、新たな人事制度を立ち上げました。

人事制度「ミケランジェロ」の採点表

人事制度「ミケランジェロ」の採点表

 その名も「ミケランジェロ」。中世のイタリアで活躍した芸術家ミケランジェロは、彫刻をはじめ絵画や建築などで多くの名作を残した偉才で、その活動分野の広さから、「万能人」と呼ばれています。彼のような多面的な能力をもつ万能人を目標にして仕事に取り組んでほしい。そんな思いを込めました。

 年齢や役職に関係なく従業員全員で互いの仕事ぶりを評価し合い、賞与に反映する制度で、A4サイズの採点表に基づき、年2回実施します。評価項目は、「基本」「積極性」「コミュニケーション」「能力」「成果」という5つのカテゴリーごとに6つずつあります。基本カテゴリーであれば、「出社や会議の時、常に時間厳守できた」「良い所や成功を褒め、かつ悪い所や失敗を注意、指導していた」といった具合です。

 当初は従業員の相互不信を招くのではとの不安もあったようですが、杞憂に終わりました。従業員にとっては、評価が数値化され納得しやすくなるほか、成長に必要な要素が明確になり次の目標を立てやすくなるためです。また、社内のコミュニケーションが活発になり、それまで独立していたグラフィック制作とウェブ制作の一括受注や、イベントの企画運営を含む総合的なブランディングの仕事が増えました。

 導入から3年が経過し、ミケランジェロは目に見える経営効果もあげています。従業員の定着率は高まり、利益率も導入前に比べて5パーセント上昇しました。

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 同社が見つめ直したのは、人事評価制度でした。印刷工場からデザイン会社へと転換を図るなかで、専門性の高い多様な人材を評価するのに、従来型の一方的な手法では十分に対応しきれなくなっていたからです。

 従業員の相互評価で賞与を決める人事評価制度「ミケランジェロ」は、日夜仕事に没頭する従業員にその姿を客観的にとらえる機会を与え、互いの専門性を生かす協働を促します。こうした取り組みは利益率向上という成果につながり、社内の士気もいっそう高まりました。

 人事労務管理のような間接部門であっても、見つめ直すことによって、企業のパフォーマンス向上につながる好例といえるでしょう。

 ※本連載は、日本政策金融公庫総合研究所編『「見つめ直す」経営学―可視化で殻を破った中小企業の事例研究―』(2017年、同友館)の一部を抜粋・再編集したものです。(http://www.doyukan.co.jp/store/item_052842.html
藤田 一郎(ふじた いちろう)
日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員。2005年慶應義塾大学経済学部卒業後、国民生活金融公庫(現・日本政策金融公庫)入庫。近年は中小企業の経営や創業に関する調査・研究に従事。最近の論文に「創業の構造変化と新たな動き―マイクロアントレプレナーの広がり―」(『日本政策金融公庫調査月報』2017年1月号)、「リレーションシップバンキングが中小企業の業績に与える効果」(『日本政策金融公庫論集第32号』2016年8月号)などがある。

キーワード:経営、企画、経理、経営層、人事、人材、営業、マーケティング、管理職、ものづくり

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