石澤卓志の「新・都市論」

インバウンド需要「モノからコト」は本当? みずほ証券 上級研究員 石澤 卓志氏

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 カプセルホテルのみを集計した公的なデータは存在しないが、「iタウンページ」で検索すると、「カプセルホテル」の業種には全国で274件が該当する(2017年8月時点)。都道府県別では東京都の69件が最も多く、次いで福岡県が21件、神奈川県17件、大阪府14件などとなっている。この方法では把握できない施設も多いと考えられるが、現状ではカプセルホテルのストックはまだ小さいと思われる。

 これまでは一定水準のグレードを備えたホテルのみを投資対象としていたREITにも、カプセルホテルやコンパクトホテルを運用する例が複数出ているが、その多くはカラオケ店などをリニューアルした施設である。繁華性の高いエリアに需要が限定されるため、不動産価格の上昇に伴って、新規開発が困難になりつつある。

 一般の住宅等を宿泊施設として利用する「民泊」については、2017年6月9日に「住宅宿泊事業法」(民泊法)が成立し、早ければ2018年1月から施行される見込みとなっている。これまで民泊施設を適法に運用する方法は、「簡易宿所」として都道府県知事の許可を取得するか、「国家戦略特別区域」における「特区民泊」の制度を活用するかに限られていた。後者については、2017年3月末時点で、東京・大田区で33件117室、大阪市で48件95室、大阪府(大阪市を除く)で4件6室が認定されていた。しかし、大半の民泊施設は無許可だったと見られている。

 民泊サイトのAirbnb(エアビーアンドビー)には、日本国内の物件が約5万3,000件登録されており、過去1年間の利用者は500万人に達した(2017年7月時点)。この利用者数の8割程度が訪日客で、単純計算では2016年の外国人観光客総数(2,404万人)の約16%に当たる。中国最大手の民泊サイトである途家(トゥージア)にも日本国内の物件が5,000件程度登録されているが、複数のサイトに重複して登録されている物件も多いと見られる。また、京王電鉄が、民泊運営の百戦錬磨(本社:仙台市)と連携して、2017年2月に民泊専用マンション「KARIO KAMATA」を東京・大田区にオープンするなど、大手事業者の民泊事業への参入も相次いでいる。

 ただし民泊がどの程度普及するかは未知数と言える。民泊法では、1年間の営業日数の上限が180日とされたほか、宿泊人数の制限、非常用設備の設置、宿泊者名簿等の作成、周辺地域の住民からの苦情への対応など、厳格なルールが定められた。

 無許可の施設が排除されることは、民泊の普及に不可欠であるが、逆に民泊施設のキャパシティが減少する可能性もある。また、一部のルールは条例によって変更が可能であるため、自治体の対応によって普及状況に差が生じる可能性がある。これらの事情を考慮すると、民泊も当面の間は、一般のホテルを脅かす存在にはならないと思われる。

 宿泊施設には「数」だけではなく「質」の問題も大きい。特に日本には、富裕層向けのラグジュアリー(最高級)ホテルが少ないとの指摘がある。いずれにしても、「ホテルの供給過剰」に対する懸念は杞憂と思われる。

石澤 卓志(いしざわ たかし)

1981年慶應義塾大学法学部卒、日本長期信用銀行入行。調査部などを経て長銀総合研究所主任研究員。1998年第一勧銀総合研究所で上席主任研究員。2001年みずほ証券に転じ、金融市場調査部チーフ不動産アナリスト。2014年7月から上級研究員。主な著書に「東京圏2000年のオフィスビル 需要・供給・展望」(東洋経済新報社 1987年)、「ウォーターフロントの再生 欧州・米国そして日本」(東洋経済新報社 1987年)、「東京問題の経済学(共著)」(東京大学出版会 1995年、日本不動産学会著作賞受賞)などがある。国土交通省「社会資本整備審議会」委員など省庁、団体などの委員歴多数。

キーワード:経営、企画、経営層、管理職、プレーヤー、経理

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