天下人たちのマネジメント術

西郷、ナポレオン...読みたい歴史書10冊

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時代が求めた「冴えないけれど偉い人々」

(5)足利将軍と室町幕府(戎光祥選書ソレイユ、1800円)

 著者の石原比伊呂・聖心女子大専任講師は、冒頭に「室町幕府の将軍は誰も幸せになっていないし、現代を生きるハウツー本として重宝されるような立派な生き方もしていない」という説を紹介している。確かに初代将軍の足利尊氏は「朝敵」の代名詞だったし、2代義詮は戦場で致命的ミスを重ねていた。3代義満は天皇家を乗っ取ろうとした大陰謀家だ――。しかし冴えないのに偉いのはなぜか? 著者は15代・約240年間も続けられた背景を探り、日本社会における「非実力主義型リーダー」像を歴代の足利将軍に見いだしている。

 室町時代はむき出しの強制力ではなく、秩序を立てて社会を統制していく時代だった。その中で足利将軍は軍事力や経済力などの物量ではなく、超越者として秩序の頂点に位置づけられたという。足利将軍の権力とは「とりまとめ役としてのバランス装置」の力だったと著者は結論している。「最終的には、この人の言うことだけは聞かなければならない」という存在を、守護大名ら実力者たちが一致団結して担ぎ上げたのが足利将軍だったというのが著者の見立てだ。「おそらく日本人は自覚できる意識の面では実力主義を是としながら、無意識の部分では権威や秩序によって社会を整序する非競争社会を望んでいるのではないだろうか」としている。

 (6)「日本史の内幕」(中公新書、840円)

 若手研究者らによる意欲的な一般向けの好著が相次いでいる。そのきっけかを作ったのは昨年の「応仁の乱」(中公新書、呉座勇一著)。現在の歴史書ブームは「呉座効果」といえる。本書の磯田道史・国際日本文化研究センター准教授も精力的に執筆している若手のひとり。本書では「一次情報」をキーワードに、古文書を渉猟する研究活動の中で捉えた通説とはひと味違った歴史の見方をエッセーの形で提供してくれる。

 この著者の作品が面白いのは、新説が相次ぐ日本史研究の最前線にいる専門家でありながら、ごく一般的な歴史ファンの視点も備えているからだろう。本書も「ヒストリー」は「ストーリー」でもあることを実感させてくれる。例えば武田信玄が徳川家康に完勝した三方原の戦いは、これまでのように圧倒的な兵力差があったのではなく、家康も織田軍から十分な援軍を受けていたという。家康は無謀な決戦策を選んだのはなかった。さらに敗北して浜松城に逃げ帰った際に見せた家康の気配りのエピソードは現代でも応用が利きそうだ。

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