企業競争力を高めるビジネスサイト ビズゲート
トップ >> セミナー特集 >>KUMONのグローバル展開から学ぶ~理念経営における合理の重要性~

グローバル展開をけん引してきた日本企業といえば、自動車産業やエレクトロニクス業界というイメージが強い。そうした中で、世界47カ国・地域でグローバルなオペレーションを進めるKUMONの取り組みは、流通業、サービス業など今後、海外展開が本格化する企業にとってはもとより、サービス部分が競争のカギになる製造業にとってもヒントになることが多いのではないか。グロービスの高橋氏と公文教育研究会の楠澤氏が、「企業理念とビジネスとの整合性」をキーワードに対談を行った。
高橋亨氏(以下敬称略) 海外事業で成功する企業は、現地の組織を引っ張る強い個(個人)がいて、それを支える企業理念が経営の中心に据えられているのが共通の特徴だと思います。KUMONさんは理念を非常に大事にされていると聞きましたが、楠澤さんの考える「企業理念」とは何でしょうか。

株式会社公文教育研究会
取締役 楠澤 秀樹 氏
楠澤秀樹氏(以下敬称略) KUMONは「人間の可能性を発見し、一人ひとりの能力を最大限に伸ばす」という理念を掲げ、教科書の進度や受験とは関係なく、言葉と数学をツールにして人間の可能性を最大化することを目指している会社です。そして教育をベースに社会に貢献した結果として、利益を得られるのだと捉えています。
その意味で、理念は「何のためにこの会社があるのか」という企業の存在意義ですし、「誰のために何をしたいのか」を明確にするために立ち返るもの。また、そこに関わる人たちをつなぎ合わせるものだと思います。
高橋 その企業理念は、KUMONさんの海外ビジネスにおいてどのような意味がありますか。楠澤さんがアメリカ駐在中に、理念に関係した出来事や経験は何かありましたか。
楠澤 私が初めて北米に行ったのは1988年で、赴任先はテキサス州のヒューストンでした。ダラスとヒューストンに日本人向けの教室が2つありましたが、現地の人はKUMONなんて知りません。当時のアメリカには、塾などの「教育サービス」という概念自体が存在していなかった。そういう状況で日本人以外にKUMONのサービスを広げていくには、「公文式とは何か」から説明し、KUMONに共感してもらうしかありませんでした。
それは結局、一人ひとりとの出会いの中で私たちの理念を語っていくことから始まりましたが、幸い、一人二人と理解して下さる方が増えてきました。
2003年に3回目の赴任をしたときは、理念がマネジメントを縛り、組織を硬直させていました。理念は組織に共感を生み、共にお客様の利益に向かう原動力にもなりますが、その時は理念が目的化して、社内の雰囲気が悪くなっていました。
現地化がかなり進み、従業員400人の中に駐在員は私一人という状況の中、キーになるスタッフ7、8人と一緒に「KUMONをアメリカでどんな会社にしたいか」について、共通の解釈を持てるまで徹底的にコミュニケーションを重ねました。いわゆる現地における「理念の再定義」をしたわけです。
このとき痛感したのは、コミュニケーションは、質はもちろん量がとても大事だということです。量がないと理解し合えませんし、バイアスがかかった情報を排除して実態をつかむ情報をキャッチすることも難しくなります。

株式会社グロービス
グロービス・オーガニゼーション・
ラーニングカンパニー・プレジデント
高橋 亨 氏
高橋 「理念経営」というと、マインド面である「情理」に注目されがちですが、それが戦略や組織設計とどう整合しているか、「合理」も重要です。私は、「合理と情理の融合」がグローバルに理念を浸透させていくカギだと思っているのですが、KUMONさんが行った合理と情理の融合は、どういうことだったのでしょうか。
楠澤 私たちが事業展開する際によりどころにしているのは、「子どもたちのために公文式を普及させ、一人でも多くの子どもたちに高品質な学習機会を提供する」ということで、ときには利益を度外視して貧しいエリアに教室を置くこともあります。それは、子どものためでもあり、長い目で見れば地域貢献にもなると考えるからです。
一方で、私企業ですから利益や効率を追求しなくてはなりません。利益があって初めて社会貢献も可能になるのです。合理と情理を見極めてどのようなアクションをとるかはバランス感覚だと思うのです。たとえば、米国に展開した際には「主婦が家庭で子供を教える」という日本のビジネスモデルを見直し、きちんと利益を出すフランチャイズ制度を米国独自のモデルとして作りました。
利益があって、人材がいて、共感してくれる人がいて初めて、私たちが実現したいことを広げていける。そのよりどころになっているのが理念ですし、「何のためにビジネスをしているのか」を深く理解することで初めて生かせるものだと思います。
高橋 楠澤さんのご経験をうかがうと、海外市場で事業を始めた時、その発展段階によって「情理と合理」のバランスのとり方を変えるのが成功のポイントではないかと考えられます。導入期は、まず理念を語ってどんな会社かを理解してもらう。自国のビジネスモデルを試す。次の成長期では、さらなる事業拡大につながる収益性確立のため、初期のビジネスモデルを脱却して、その国にあったものを構築する必要があります。次の再成長期では、理念が形骸化していないか、ビジネスモデルだけ先行していないかのチェックが必要になってきます。
今日は貴重なお話をありがとうございました。