守りの総務から攻めの総務へ STRATEGIC総務

日本は、60時間以上残業する人が世界で一番多く、ワークライフバランスに全く満足していない割合は日本が一番高い、との国際的な調査結果があります。長時間労働をいとわない国民性があったから現在の日本の成功がある、新興国が台頭してきた現在、さらに働かないと国際競争に勝てない、といった考え方もありますが、これは本当でしょうか。
労働生産性をみると、日本の順位はOECD33カ国中22位、先進国の中では最下位という状態です。長時間労働で疲弊し、睡眠時間を削られている。寝不足のまま集中力を欠いた状態で出社し、つまらないミスを犯す。その結果仕事が長引き、私生活がなくなる。だから、アイデアの引き出しは空っぽ、会議は長引き貧困なアイデアしか出ない。こんなことが繰り返され、負のスパイラルにはまり込んでいるのが今の日本だといえます。このスパイラルを止めて逆回転させるのがワークライフバランスであり、これからの人材育成のキーポイントです。
日本企業は今、人口構成上のゆがみから深刻な問題を抱えています。団塊世代が一斉に定年退職をし始めたことに加え、新規採用数を抑えた結果、若手や中堅世代が過重労働となりモチベーションが下がるといった問題が生じています。この課題をいかにコストをかけずに解決するか。もっとも有効なソリューションがワークライフバランスなのです。
学生が就職活動で企業を選ぶ際に重視するポイントの第1位も、3年連続して仕事と生活の両立できる企業です。両親を見て育った若者たちには、仕事一辺倒が家族を不幸にするという実体験があります。そんなゆとり思考では嘆かわしいと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、今の学生にとってはこれが当たり前の優先順位なのです。
また、ワークライフバランスを加速すべき背景には、介護という社会的問題もあります。現在、介護施設の入所待機をしている人が42万人に上り、待機児童の数よりはるかに多いのです。今後も、仕事と介護を両立せざるを得ない人が増えるのは間違いないでしょう。
昨年、介護休暇を取った人の7割が男性だったという企業や、親の介護に直面する自社の社員が10年後に14000人になると分かり、急きょ対策に乗り出した企業などもあります。つまり介護によって労働時間に制約が生じる社員が増え、継続して利益を出すにはワークライフバランスを一気に進め、労務を改革することが急務と気づいたのです。ただ、時間的制約を考慮した働きやすい環境や制度を整えたとしても、長時間労働を解消しなければモチベーションは上がりません。仕事の進め方を長時間労働に合わせたままでは、時間的制約のある人には重要な仕事を回せないといった事態が起きてしまうためです。本当の意味での成果主義、つまり月末、年度末といったロングレンジではなく時間当たりの生産性で業績を評価する。そうしたマネジメントに変えることが重要です。
業績評価を変えるには、まずは管理職の意識を変える改革に取り組む必要があります。改革を疎かにすると、少なくとも3つの問題が生じます。第1は、個人的な事情も時間的制約もない人しかモチベーションの上がらない組織となり、人材力で勝てない。第2は、非効率な仕事プロセスを改善する意欲を社員が持たなくなる。第3は、多様な価値観が育たない、といったことです。改革をしなければ、24時間型の男性社員だけが生き残る組織となってしまいます。顧客には育児中の人、介護中の人、障害者や外国人もいる。多様な顧客を相手にビジネスをしているのに、社内は均一な人材ばかりで24時間型男性が欲しがる商品、サービスばかりを提供する企業になってしまう。これでは、マーケットの中でシェアを取っていけません。
これから重要なのは、介護など時間的制約のある人を社内に内包することです。マーケットにそういう人が増える大介護時代が迫っているのです。現状は、介護される側の商品ばかり開発している会社が多いのですが、仕事をしながら介護する人は、どんな商品、サービスが欲しくなるのか。介護しながら働ける環境をつくった企業は、その人たちのアイデアが社内からどんどん出てくるようになり、近い将来に日本以上に深刻な少子高齢化社会になるだろうといわれる韓国や中国などに売れる、グローバルにヒットする商品・サービス展開もできるはずです。
これからのマネジメントには、大きな4つのポイントがあります。第1は、ワークライフバランスの必要な人がこれからどんどん増えることを念頭に、職場全体の仕事のやり方を見直すことです。大多数の人に時間的制約が生じることを前提に、仕事内容の「見える化」「共有化」をすべきです。誰かが急に休んでも、ビジネスが回る体制を構築していく必要があります。第2は、これは経営戦略であるとトップが明確に打ち出し、社員に浸透させること。第3は、ワークライフバランスを「報酬」として活用することです。今までの報酬はお金でしたが、これからは時間や場所の柔軟さ、在宅勤務やモバイル勤務などをいかに柔軟に提供できるかが重要になります。第4は、管理職自身がワークライフバランスを実践することです。
また同時に、社員考課のポイントも4点あります。第1は、決められた時間内で高い成果を出していること。第2がプレゼンテーション能力、第3は育児、介護中の社員を支えチームワークでフォローしていること。そして第4は、後輩を信じて仕事を任せながら育てている人です。
ワークライフバランスは、仕事と生活を対立軸でみるのではなく、互いに相乗効果をもたらす関係としてみることが重要です。私生活がうるおうから心身ともに健康になり、人脈も広がり自己研さんが積める。仕事のアイデアもわき、効率的に仕事がこなせて視野が広がってくる。そして、私生活がまたうるおう。この好循環こそが、本当のワークライフバランスです。積極的にワークライフバランスに取り組んでいただき、勝てる組織と充実した人生を送れるように願っています。
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