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第17回「なぜ今、水素なのか?~2015年水素時代の幕開けに寄せて」(東海大学工学部教授 内田裕久氏寄稿)

 今年も新年早々、恒例の箱根駅伝が開催されました。先頭ランナーを伴走したのはトヨタ自動車が昨年12月に発売した、世界初の量産型の燃料電池車(FCV)「ミライ」。まさに水素時代の幕開けを象徴する光景でした。毎日のように水素関係のニュースも報じられています。なぜ今、水素なのでしょうか。

“日陰の技術”から一変、水素利用の研究開発がたどった半世紀

東

海大学工学部教授 内田裕久氏
東海大学工学部教授 内田裕久氏

 1950年代から60年代にかけて、原子力発電技術の進歩に伴い、中性子を効果的に減速できる材料として、水素を高密度で大量に吸収できる金属水素化合物が集中的に研究された時代がありました。

 その後、70年代初めに水素をエネルギーに利用しようという学術的な計画はあったのですが、ロケット燃料などの液体水素や産業用の水素ガス利用を除けば、一般社会に普及するような水素技術を利用した商品はまだありませんでした。60年代後半から70年代かけて、鉄・チタンの水素吸蔵合金が発見され、また強力な希土類系磁石材料の研究開発中に、高密度に水素を貯蔵できる水素吸蔵合金が偶然見つかりました。この頃から水素を貯蔵して積極的に利用しようという水素利用技術の開発が始まりました。

 私は80年代初めに、太陽光エネルギーで水を電気分解して、水素ガスを取り出して水素吸蔵合金に貯蔵するシステムの連続運転を東海大学で行いました。しかし、日本では「効率の悪い太陽光エネルギーなど非実用的だ」「水素など何に使うのか」といった批判ばかり受けたものです。

 私の研究室では80年代後半に、水素吸蔵合金を使った蓄電池を試作し、容易に1000回以上も充電・放電できることを実証しました(88年6月21日付日本工業新聞1面、88年7月8日付日経産業新聞などで報道)。これがきっかけで水素吸蔵合金を利用したニッケル水素蓄電池の実用化研究が加速し、水素吸蔵合金が注目されるようになりました。現在のトヨタの「プリウス」やホンダの「インサイト」といったハイブリッド車(HV)に搭載されている電池です。ハイブリッド自動車を実現させたのがニッケル水素電池と言えます。しかし水素エネルギーへの関心は低く、新しい蓄電池の一つという位置づけでした。

 そして最近、水素を燃料とする燃料電池が注目され始め、再び水素が脚光を浴びるようになってきました。これが、水素エネルギーの研究開発がたどってきた半世紀です。

 本稿では、水素と材料の研究に40年以上携わってきた筆者の視点から、水素の性質や魅力、利用技術、課題、将来展望を紹介します。そしてそれらを通じて、読者の皆様の「なぜ水素?」「水素は危なくないの?」「水素の魅力とは?」「水素社会とは?」といった疑問にもお答えしたいと思います。

水素とは「水のもと」

 まずは燃料電池と水素の関係から始めましょう。燃料電池の原理は19世紀には見つかっていましたが、1965年に米国が打ち上げた人工衛星ジェミニ5号の電源に燃料電池が使われた頃から注目され始めました。

 燃料電池の燃料は水素と酸素です。水素と酸素が化合して水になる時に電気を発生します。この原理が燃料電池です。普段呼吸している空気中の酸素は私たちが生きていくために必要だと当たり前に考えられていますが、水素についてはなじみがありませんね。

 万物を構成するあらゆる元素の中で、最も小さく軽い元素が水素です。元素記号では英語のHydrogenの頭文字をとって「H」で表記されます。しかし元々の意味はドイツ語でいうWasserstoff、すなわち、Wasser=「水」のStoff=「素(もと)」。水の素(みずのもと)ということです。水の分子は大きな酸素原子1個に、小さな水素原子が2個ついている構造です。

>> 水素は危ない?

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