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スマートシティは「実証」から「実装」段階へ
  ~ALL JAPANで世界市場を切り拓く機会~

 世界規模で多数のスマートシティプロジェクトが動き始めている。エネルギーとICTを融合して賢い都市をつくる。それは広大なフロンティアであり、新しい産業創造への期待も大きい。スマートシティ領域ではこれまで様々な実証実験が行われてきたが、その成果を踏まえてすでに社会実装のフェーズに突入している。動きを加速させるために必要なものは何か。それぞれに大きな役割を担う有識者・金融機関・ICT企業の立場から、東京工業大学 特命教授 柏木孝夫氏、三井住友銀行 プロジェクトファイナンス営業部 成長産業クラスター室 上席推進役 雨倉由明氏、NEC 執行役員常務 國尾武光氏 の3者が語り合った。

日本の成長戦略の柱になるスマートシティ

――産業界のみならず、社会の各方面からスマートシティが大きな関心を集めています。その理由は一体どこにあるのでしょうか。

柏木 日本では従来から「化石燃料から非化石へ」という流れの中でCO2削減、省エネの取り組みが進められてきましたが、原発事故を受けて「縮原発」または「脱原発」というテーマが急浮上しました。原発に代替する手段を見つけるのは容易ではありませんが、解決策の1つとしてデマンドサイドのピークを出さないスマートな仕組みづくり、あるいは太陽光をはじめとする再生可能エネルギーの取り込みが注目されています。

柏木氏

 スマートシティは日本を活性化させていくという点でも、様々な分野から期待を集めています。というのも、スマートシティを実現するためには、多くの産業がそれぞれの持ち場で役割を果たす必要があり、省エネ家電、重電、ICT、自動車、素材等々、日本企業が技術的な蓄積を持つ領域も多いからです。つまり、スマートシティは数少ない日本の成長戦略の重要な柱となっているのです。

――民間企業の立場から見て、スマートシティのもたらすインパクトとはどのようなものですか。

國尾 スマートシティは単に都市が賢くなるだけでなく、そこに住む人々のライフスタイルを賢くするものだと思います。しかも、先進国から新興国まで世界規模でプロジェクトが動き始めています。柏木先生がおっしゃったように、日本企業の技術やノウハウを生かせる分野が多く、非常に大きなチャンスだと思います。

雨倉 私たちがスマートシティに注目する理由もそこにあります。国内の既存市場が縮小する中、新しい成長産業が強く求められていますが、スマートシティは広大なフロンティアで、マーケット的にも非常に有望であると捉えています。日本企業がこのマーケットを開拓することは日本経済の発展をもたらし、結果として我々金融機関にもプラスに働きます。こうした考えのもと、当行でも積極的にスマートシティに取り組んでいます。

スマートシティを取り巻く課題と企業の取り組み

――スマートシティの現状と実現に向けたキーファクターについて、どのように捉えていますか。

柏木 おそらく2020年ごろまで、日本では慢性的な電力不足が続くでしょう。一方で、CO2削減といった地球環境問題への対応も求められています。さらに、日本の成長戦略を実行に移す上でも、スマートシティを取り巻く様々な規制や仕組みの改革が必要です。電力システムの改革や自由化も進むでしょう。今、大切なのはスピード感です。例えば、スマートシティの重要な構成要素である電気自動車は、すでに量産され街中で見る機会も増えてきました。つまり、すでにスマートシティは“実証”から“実装”の段階に入っているということ。そのため、こうした社会実装をサポートする仕組みづくりを急ぐ必要があります。

國尾氏

國尾 スマートシティにおいて“エネルギー”はとりわけ重要なテーマだと思っています。

 再生可能エネルギーの普及に見られるように、今では一般家庭もエネルギー流通に関与できる時代になりました。エネルギー社会は「自立」「分散」「多様化」へと大きく移り変わろうとしています。

 しかし、再生可能エネルギーは天候などに大きく左右されるためバッファーの存在が欠かせません。そのバッファー役を担うのがエネルギーを貯める蓄電池です。NECでは20年ほど前から蓄電池の研究開発に取り組んでおり、日産自動車の電気自動車「日産リーフ」に搭載されたバッテリーの電極はすべてNECグループから供給しています。また、いち早く家庭用蓄電システムを製品化し、ビルや系統用など中・大型蓄電システムの開発にも取り組んでいます。これらは今まさに求められている技術・製品です。NECが長年蓄積してきた技術やノウハウを、社会の課題解決や利便性の向上に役立てる機会が訪れたのだと捉えています。

――蓄電池分野以外でも、エネルギー分野において推進している取り組みはありますか。

國尾 エネルギーを効率的に使うためには、エネルギー関連情報と生活シーンで捕捉される情報を繋ぎ合せることが不可欠です。エネルギーとICTとの融合がカギを握りますが、各システムを別々につくるのは高コストで非効率です。この課題を解決するのがクラウドだと思っています。

 そこで、NECでは蓄電技術とICTの両面における強みを生かした“スマートエネルギー事業”に注力しています。蓄電池などの様々なエネルギーコンポーネントから集めた情報をクラウドで分析し、エネルギーマネジメントシステムへと受け渡し活用することで、エネルギーの「自立」「分散」「多様化」というニーズに合った新たなサービスや価値を提供できます。スマートエネルギー事業を一層強化しながら、スマートシティのエネルギー基盤を支えていきたいと考えています。

雨倉氏

雨倉 今、スマートシティは事業として立ち上がろうとしていますが、このような実装段階においてはマーケットを捉えることが非常に重要です。これをいかにサポートするかが我々金融機関に求められています。その一例が、コーディネーターとしての役割です。幅広い業種のお客様とお付き合いがある金融機関ならではの価値を提供できればと考えています。

柏木 例えば、原野の中にスマートシティを新設する場合に比べて、既存のコミュニティをスマート化するのは本当に大変です。最大の課題は、錯綜(さくそう)する利害をいかに調整するか。金融機関には、こうした役割を期待したいですね。

雨倉 金融機関が前面に出たほうが調整しやすい場合、そうでない場合があります。考え方の異なる住民の合意形成に長けているのは、自治体や不動産会社などの方々でしょう。金融機関が仲立ちして、こうしたプレイヤーを呼び込むことはできると思います。様々な得意分野を持つ企業をコーディネートすることで、スマートシティの構築に貢献できるのではないかと考えています。

柏木 これに加え、スマートシティの構築においては、安全・安心という視点も極めて重要だと思っています。言い換えれば、これはスマートシティの価値そのものといえるでしょう。

國尾 同感です。いち早く実装段階に持ち込みつつも、住む人々が安全・安心に過ごせる街にしなければなりません。そこで、NECでも様々な技術を開発しています。例えば、NECの家庭用蓄電システムでは、お客様が安心してお使い頂けるように、異常がないかクラウド経由で常に見守る仕組みを用意しています。これからも様々なコンポーネントがスマートシティに組み込まれると思いますが、その運用を支える仕組みをICTで構築することが、安全・安心な街づくりに繋がり、スマートシティの価値を高めることでしょう。この視点からもICTの役割は大きいと考えています。

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