パネルディスカッション ZEBの普及に向けて

2018年2月16日

<パネリスト>
吉田 健一郎 氏
中村 和人 氏
加藤 美好 氏
中村 真 氏
高井 裕紀 氏(三機工業 建築設備事業本部 エンジニアリング統括室 エネルギーソリューションセンター長)=写真


吉田 淳 氏
堀江 隆一 氏
杉浦 一則 氏

<モデレーター>
田辺 新一 氏

 パネルディスカッション「ZEBの普及に向けて」では、モデレーターの田辺新一氏の問題提起に続き、コンビニ店舗の開発、環境や不動産のコンサルティングの視点から有識者3人がプレゼンテーションを実施。続くパネルディスカッションでは、熱い議論を繰り広げた。

はじめに

田辺 2009年5月に「ZEBの実現と展開に関する研究会」が発足し、翌年1月に第1回シンポジウムを開催したとき、まだ「ZEBって何」「やれないことはないが」という雰囲気だった。それから10年弱、国内でもZEBの事例が増え積極的に環境に投資しようという機運も高まっている。これまでの知見も生かしながら、今後、どう工夫していくべきか、さらなる省エネ推進のために議論を深めていきたい。

高まるZEBへの関心 建物の新たな価値創出

田辺 ZEBは単に省エネだけではなく、その価値自体が世の中に認められつつあるようだ。

吉田(健) 省エネ政策を進める上で、建築物の省エネをどう進めるかは重要な課題。その点でZEBに注目しているが、さらに高みを目指していく中で、省エネに加えてレジリエンスや生産性向上の可能性にも着目している。

中村(真) 九州支社は実験的要素を盛り込んだので、実際にはコストが10%増以上になっている。ただZEB Readyレベルなら現在の省エネ技術で達成可能だ。見学者からは、実際に働いてみて快適なのかという質問が多い。快適性はおおむね向上しているが、さらなる課題も見えてきたので、そこもきちんと伝えて次につなげようと思っている。

高井 2000年から1000件以上の診断から提案を行い、200件以上の省エネ工事を実施した。10年前の工事案件と比べて、時代に合ったニーズや新しい技術も出ており、変化の速さを感じる。

杉浦 社内でのZEBに対する認識はまだ足りないと感じる。経済性の点からZEB導入を考えたが、コンビニ業態のZEB化に二の足を踏む施工業者も多い。特殊でハードルが高いイメージを払拭して、ZEBの正しい知識を広めることが大事だと痛感する。

加藤 研究棟でZEBを導入し、これまでに1万人以上が見学し、続々と申し込みがある。技術的な関心だけでなくビルオーナーも興味があるようだ。ZEBは省エネの延長ではないと捉えられている。

中村(和) 本社の見学希望は今でも多い。「同じコンセプトのビルを建てたい」という要望には、働く部屋の環境の快適さと地球環境への対応の両立について説明している。見学者は省エネに加え空気や照明など働く環境を重視しているようだ。

田辺 昨年12月に国土交通省が「ESG投資の普及促進に向けた勉強会」の中間取りまとめを発表した。

堀江 この背景には、J-REITの市場規模を20年頃までに今の倍の30兆円にしようという政策がある。健康と快適性に関する認証制度を創設、その価値を「見える化」して不動産価値向上につなげる狙いだ。またZEB推進には、エネルギー消費量の設計値だけでなく実績値に基づく指標の創設も重要だ。

吉田(淳) CASBEE等の第三者認証を取得したビルは成約賃料が4.4%高い。ZEBが正しく評価されなければ、性能が高くてもいい評価は得られない。素晴らしい機能であっても、それが伝わることが大事だ。

田辺 大成建設はSDGsに向けてZEBを建てるという提案についての数値を重要業績評価指標(KPI)として約束している。

加藤 昨年「大成ビジョン」を発表して、低炭素化に向けた目標項目の1つとして年間10件以上の提案を打ち出している。少し低すぎるかもしれないが、実際には10件以上の提案ができている。

中村(和) 米国グリーン建築基準(LEED)やCASBEEは地球環境とエネルギーに着目した指標だが、人を中心に健康・快適な建物空間を評価する認証制度のWELL認証は健康と労働生産性に着目している。デスクの高さ調節機構があるかも評価対象だ。当社は認証主体のデロス社と提携し講習や指導を受け、ZEBとともにワークスタイル面の改善に注力している。

異業種連携で課題共有 「省エネ=我慢」を払拭

田辺 普及への課題は。

中村(和) 完全なZEBは人口が集中する大都市では難しいので、比較的容易な地方都市から普及させていくべき。大都市については、まず付加価値や健康の課題なども合わせて提案できる指標を作っていくことが重要だと考える。

加藤 最先端の技術にもチャレンジしていきたい。チャレンジした成果が評価されモチベーションアップにつながるような制度も必要だ。

中村(真) 今後の技術開発にはオープンイノベーションが不可欠。我々が何に困っているかという情報を発信して、異業種連携を模索していきたい。

高井 まだ省エネ診断の経験がない企業も多い。大企業から中堅・中小まで網羅して省エネ診断を支援する制度があれば、省エネやZEB化に対する投資も広がるのではないか。

杉浦 テナントがメリットを享受するのは、コンビニにとってはFCオーナーのエネルギー負担が減るというのと同じ。運営側に直接的なメリットを感じてもらうことが重要だ。

吉田(淳) 東日本大震災後の「我慢の省エネ」で生まれた負のイメージを覆す必要がある。それと働き方とか生産性向上に寄与するオフィスは、建物も重要だが運用の仕方も重要。設計から運用まで協働による成功事例が求められる。

堀江 技術以外に3つの推進力が必要。政府・自治体による規制やインセンティブ、投資家による要請、テナントの選択だ。積極的にZEB選択を促す制度が必要で、テナントの行動を評価・表彰する仕組みも検討課題だ。

吉田(健) ZEBの普及に向けて、用途別、規模別、地域別に求められる特徴を把握し、それを踏まえた対応を考えていきたい。「省エネで我慢する」ではなく、「より快適で生産性を高める」価値の可能性も感じた。建築物には作り手、オーナー、テナント、投資家などいろいろな人が関わる。皆がZEBをキーワードに同じ方向へ進める環境を関係者とともに作っていきたい。

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