パネルディスカッション 水素が切り開く日本の成長戦略とスマート社会

2015年8月24日

<パネリスト>
戸邉 千広 氏(経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部 燃料電池推進室長)=写真左
小川 謙司 氏(東京都 環境局 都市エネルギー推進担当部長)=同中
斎藤 健一郎 氏(JX日鉱日石エネルギー中央技術研究所 上席フェロー)=同右
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村関 不三夫 氏(東京ガス 常務執行役員 エネルギーソリューション本部長)
前川 治 氏(東芝 執行役上席常務 次世代エネルギー事業開発プロジェクトマネージャー)
原田 英一 氏(川崎重工業 執行役員 技術開発本部 副本部長)
宮崎 淳 氏(岩谷産業 常務執行役員 水素エネルギー部長)

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<コーディネーター>
橘川 武郎 氏(東京理科大学大学院 イノベーション研究科 教授)
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まちづくりに果たす水素の役割とは

橘川 まずは国の水素政策から説明いただきたい。

戸邉 昨年決定した国のエネルギー基本計画では、電気と熱が中心の2次エネルギーにもう一つの柱として水素を加えることがうたわれている。それを受け策定された水素燃料電池ロードマップにはフェーズ1から3までに分け水素社会実現への道程が記された。

 まず足元のフェーズ1では燃料電池が本格普及、フェーズ2では2030年ごろを目指し、水素発電を視野に入れながら、海外などから水素を大量に調達する体制を整備、40年ごろをターゲットにしたフェーズ3ではCO2フリーの水素社会の実現を目指すという流れだ。燃料電池については現在普及台数12万台のところを30年までに530万台、FCVの普及については、現時点で設置の進む水素ステーション81カ所を皮切りにさらに整備を進め、また20~25年ごろまでには燃料代・車両価格をハイブリッド車並みにという目標で動いている。

橘川 本日出席の各氏は、水素社会実現の上でフロントラインに立つ方ばかりだ。最初にまちづくりと水素の関係について話を伺いたい。

村関 まちづくりは東京ガスの最優先事項であるが、現在力を入れている業務用の大型の燃料電池が大きな役割を果たすと期待を寄せている。耐久性も非常に高く17年には市場投入できるのではないか。ビルへの電気の供給、熱の利用、さらには水素ステーションに水素を供給できる「トリジェネレーション」を実現でき、街の中核インフラとして機能できる。

斎藤 JX日鉱日石エネルギーはじめ、石油各社が持つSSは街の拠点であり、これを水素も供給できる街のエネルギーステーションとして育てたい。FCVは平時は車、災害時には電源として使える社会インフラだ。SSでFCVを支えることで街を支えたい。

宮崎 岩谷産業も水素をはじめ分散型エネルギーの供給に長い歴史を持つが、水素ステーションを核としたコミュニティーの展開を思い描いている。自治体との協力を進め、実験的な水素タウンの形成を進めていきたい。

小川 3・11以降、都は「スマートエネルギー都市の実現」に向け低炭素・快適性、防災力を兼ね備えた都市を目指しており、分散型エネルギーとして水素は大変うまくマッチしている。都心部での大規模開発や住宅地での開発など現場にあった取り組みを支援し、世界的な先進的事例となることを目指す。

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燃料電池・FCV普及への仕組み作り

橘川 30年に燃料電池530万台という大きな目標にはどう取り組んでいくか。

村関 エネファームの課題は価格とサイズ。発売当初に比べ約半額になったが、もっとコストダウンを図り、東京都の住宅の約7割を占める集合住宅に合うよう、より小型の製品開発を進める必要がある。ガス会社にとって、エネファームの存在で熱と電気の最適な使い方が見えるようになり、お客様に近い存在になれたことはエネルギー自由化に向けた大きな武器になる。

前川 マンションタイプのエネファームを実現する際、問題になるのは、燃料から水素を取り出す改質器のサイズだ。ある程度の規模のマンションでは改質器を共同で使用するよう屋上への設置も考えられるだろう。また、業務用の燃料電池ではエリア全体のエネルギーマネジメントに資することが求められる。出力3、4メガの燃料電池に再生可能エネルギーを組み合わせ、安定的な電源を供給できるものの開発に取り組んでいる。

橘川 燃料電池車の普及拡大はどうだろう。これは水素ステーションの整備という命題と切り離せない。

斎藤 FCVと水素ステーションはよくニワトリと卵に例えられるが、我が国はステーションを最初に整備することを選択した。市場原理がまわり出し、FCV普及に弾みがつくまでは国や自治体、自動車メーカー、我々のような水素供給事業者が支えなければならない。ステーションは全国に広げねばならないが、我々が開発を進める水素を常温常圧で液体で運ぶ有機ハイドライド方式により運搬距離を飛躍的に延ばせるだろう。

宮崎 我々は水素の供給、水素ステーションの整備・運営に加え、ステーションの設備自体も取り扱っている。現在の4億~5億円というコストを数年後には半分にする目標で進めたい。水素ステーションの整備・運営に参画するプレーヤーが増えるように、水素ステーションにより確実に収益が上がる仕組みを示していきたいと思う。

小川 水素ステーションを1億円程度の負担で整備できるよう、現在、国と都で補助している。さらに中小企業については整備費を全額支援する体制を整えている。運営に対しても補助制度を用意しており、特に中小企業については上限を1千万円とした補助を用意している。

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サプライチェーン構築と社会的受容性向上が鍵

橘川 フェーズ2以降は、どうやって水素を大量に供給するか、また水素発電をいかに実現していくかが焦点となる。

原田 現在我が国はLNG発電に依存率を高めているが、LNGを液化・運搬する技術は欧米企業が先行した。水素に関しては日本が先行し、世界を引っ張っていくチャンスがある。川崎重工業は水素を大量につくる、運ぶ、ためる、そして使うというサプライチェーン全般にわたる設備、技術の開発をしている。

 豪州の褐炭から水素をつくり、液化機で液化、世界初の専用運搬船で日本に運び、液化または高圧ガス化した水素を国内で運搬、さらに中高型水素ガスタービンを利用した熱と電気の供給など着実な技術開発に取り組んでいる。エネルギーセキュリティーや環境面からも、このような技術の実現が急がれる。

前川 我が社では米国企業に協力して超臨界CO2発電の開発を進めている。現状では燃料はLNGだが、将来的に水素を燃料に使うことを視野に入れている。完全にCO2フリーで高効率の発電が実現可能だが、超高圧に耐える燃焼機の開発などハードルも多い。

戸邉 水素専焼、つまり100%水素を効率よく大規模に燃やし発電する技術はなかなか実現が難しいだろう。他の燃料と混ぜ合わせながら発電する水素混焼などを過渡的に進めることも必要だ。20年までにいくつか実証実験を進めるべく予算措置をした。

橘川 水素については技術のガラパゴス化への懸念や、安全性に対する誤解など、啓発を進めなければならない点も多い。決してムラ文化にならないよう、活発な議論を興し、社会受容性を高めることが肝要だろう。

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