【基調講演】橘川 武郎 氏 水素社会の可能性と課題

2017年8月29日

東京理科大学大学院
イノベーション研究科 教授
橘川 武郎氏

 人類最大の危機は飢餓である。その解決には化石燃料を使うほかない。逆に2番目の危機、地球温暖化は化石燃料の抑制が必要。両者の処方箋が全く逆であることが、今人類が抱える最大のジレンマだ。

 解決策は省エネと再生可能エネルギーの使用だが、その両者に実は水素が深く関わっている。たとえば住宅の省エネでは電気と熱を同時に利用できるエネファームという定置型の燃料電池が普及。運輸部門でもFCVが登場している。

 また再生可能エネルギー活用で最大のボトルネックが「送電」だが、余った電気を水素に変えて運べば送電線が不要になる。欧州で普及している、水素をガス管に直接入れて送る「パワー・トゥ・ガス」にも期待したい。

 また水素は環境には優しいがコストが高い。一方、化石燃料は環境には悪いが安い。しかし、両者を組み合わせることでお互いの弱点を消すことができる。海外の石炭火力発電でCO2を分離・貯蔵し水素を製造して運ぶ、石炭ガス化複合発電(IGCC)で製造したガスに水素を混ぜるといったやり方を提唱したい。

 水素には多くのメリットが知られる一方、誤解も多い。①生成時にCO2を排出することもある②地球上に無尽蔵に存在するわけではない③日本は燃料電池先進国だが水素先進国ではない④水素社会の到来が近いわけではない──などだ。特に課題がコスト。克服には副生水素を使う、他の安いエネルギーと組み合わせるといった工夫が必要になる。安全イメージ向上や、FCV普及と水素ステーション整備を並行して行う「花とミツバチ」作戦も今後の課題だ。

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