「健康長寿社会の実現へ産官学の知恵を結集」

2015年10月27日

筑波大学大学院
人間総合科学研究科教授
久野 譜也 氏

久野 譜也 氏

 日本は高齢化が急速に進むが、国民のヘルスケアに対する関心は低いという。ヘルスケアへの関心を高め、健康長寿社会を実現するため、産官学が連携して「スマートウエルネスコミュニティ協議会」が7月に発足した。長年、健康ビジネスの普及に携わり、会の副会長にも就任した久野譜也・筑波大学大学院 人間総合科学研究科教授に、設立の狙いや取り組みについて聞いた。

成人の約7割が「健康に無関心」

――「健康づくりのビジネス化」を提唱し、健康長寿社会の実現や地域経済の活性化を促す取り組みを長年、続けておられます。

 1996年に筑波大学の私の研究室と茨城県大洋村(現・鉾田市)とで、高齢者向けの健康増進プロジェクト(大洋村プロジェクト)を立ち上げ、一定の成果を得られました。筋力トレーニングなどを取り入れ、高齢者の健康度が向上し、医療費の削減効果も実証できました。

 市場創出の可能性が高く、自ら事業を全国に広げたいと考え、大学発ベンチャーとして株式会社つくばウエルネスリサーチを2002年に設立。企業や自治体と連携し、様々な事業を手掛けてきました。

 当時から、歩数や心拍数といった一人ひとりのデータを管理する仕組みを考えていました。いま、アップルやグーグルなどがウエアラブル端末として事業化していますが、それを先取りしていたことになります。ただ、当時は大半の企業がニーズを理解できず、時期尚早とみられていました。時代が追いついてきたのかな、と感じています。

――最近の取り組みとして、2014年度から健康づくりに無関心な層を動かすためのインセンティブの確立をめざす実証事業を始めていますね。6つの自治体が参加し、成果があがっているようです。

 高齢化がどんどん進んでいるのに、ヘルスケア市場の拡大がなかなか進まないのはなぜか。約2000人を調査したところ、健康づくりに対して成人の約7割が無関心であることがわかりました。健康ブームといわれ、誰もが関心を持っていると思われてきたが全く違っていました。わずか3割の関心層を奪い合っていただけだったのです。

 こうした無関心層の掘り起こしが急務と考え、「健幸ポイント」というインセンティブの仕組みを考えました。歩数計で運動データを集め、その努力と成果に対して、年間最大24,000円相当のポイントを付与します。ポイントは商店街で買い物に使ったり、寄付してもらったりして、地域経済の活性化にもつなげてもらうというわけです。

 1年目は6つの自治体で、国が掲げた目標の2倍以上の参加者を集めることができました。1人平均の歩数も目標の1日8,000歩を超えました。私たちの試算では、年間の医療費を1人あたり3万~4万円削減する効果が見込めます。


(注:クリックすると別画面で拡大します)

――うまくいっている理由は何でしょう。

 参加した人に理由を聞いたところ、最も多かったのが「口コミ」で約4割を占めました。利用者の中で伝達能力の高い人物「インフルエンサー」をうまく活用すれば、無関心層を動かせる可能性があることがわかってきました。

 従来は自治体が印刷物を作り、各家庭に配布したり、回覧したりしてきたが、こういう上からの情報提供では住民は動きません。実際、ある自治体でポイント制度のチラシを全戸に配布し、1ヵ月後に調査したら、76%が「知らない」と答えました。日本の行政は今までずっとこうしたやり方を続けており、情報が伝わる仕組みが確立されてこなかったと言えます。

 企業でも口コミをうまく活用している例はあります。会員制フィットネスクラブを展開するカーブスジャパンは広告を使わず、利用者の口コミで会員数を増やし、成長しています。口コミといっても、たまたま話すのではなく、用意周到に時間をかけて進めているのです。健康支援ビジネスの1つのモデルになるだろうとみています。

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