「ZEBが生み出す省エネを超えた価値」

2018年1月31日

早稲田大学 創造理工学部建築学科 教授・工学博士
田辺 新一 氏

田辺 新一 氏

 省エネや再生エネの活用により、建築物のエネルギー消費をゼロに抑える「ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)」の普及に向け、官民の取り組みが活発化している。なぜ今、ZEBへの関心が高まっているのか、技術的な課題は何か。早くからZEBの研究に携わり、国内外の動向にも詳しい早稲田大学創造理工学部建築学科の田辺新一教授に聞いた。

建物の省エネ、意識改革が急務

――ZEBへの関心は世界的に高まっているようです。背景を教えてください。

 ZEBの概念は2000年代半ばごろに欧米で広まり始め、日本では2009年に経済産業省・資源エネルギー庁の「ZEBの実現と展開に関する研究会」が開催されたのを機に認知されるようになりました。その後、2014年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画の中で「2020年までに新築公共建築物等で、また2030年までに新築建築物の平均で、ZEBを実現することを目指す」目標が明記されました。

 ここへ来て注目されている背景には、まず2015年末のCOP21(第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議)で2020年以降の地球温暖化対策の新たな枠組み「パリ協定」が採択されたことがあります。日本は2030年時点 で13年比26%減とする温暖化ガス削減目標を掲げていますが、オフィスビルなどの業務部門や家庭部門はそれを上回る約40%の削減が必要となっています。東日本大震災以降、多くの原子力発電所が停止したままとなっており、業務部門の省エネルギー対策はさらに重要さを増しています。

 このほか、最近の世界的な潮流としてESG投資への関心の高まりも要因として挙げられます。企業の環境対策や社会的な活動を評価して投資することですが、ZEBも単なる環境対策というだけでなく、投資対象としての価値を評価され、関心を集めているのです。

――業務部門の温暖化対策が急務ということですが、建物の省エネが難しいのはなぜでしょうか。

 いくつか理由があります。1つはライフサイクルが長いこと。50年から100年くらい使うので、「今すぐやらなくてもいいんじゃないか」と先送りされがちです。2つ目は既存ストックが多いこと。2016年時点で住宅の床面積を比較すると、ストックに占める新築の割合はわずか1.5%に過ぎません。住宅以外の民間建築物では1.3%です。そうすると、新たな技術を新築に取り入れても効果がないのでは、となってしまいます。

 3つ目はエネルギー費用が事業コストに占める割合が低くく、そのため、エネルギーコストが固定費に近い感覚で捉えられる傾向があり、経営課題として認知されにくいことがあります。4つ目は関連していますが、初期投資コスト意識の強さ。建設にかかる投資額が大きいので、ライフサイクルコスト低減効果を実感しにくい面があります。

 自動車や家電は次々と新商品を発売するため、新技術も反映しやすいのですが、建築物は新技術に飛びつくと耐久性や陳腐化の心配があります。また、建築は「枯れた技術」が好まれる傾向があるほか、建物のオーナーや建設者にも今まで通りの方が楽だという意識が働きがちです。しかし、海外では省エネ意識の高まりから、対策を先送りせず、今すぐ実行するといった風潮が広がっており、日本も意識改革が急務と言えます。

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