「SDGsは絶好のイノベーションの機会」

2017年12月26日

自社で取り組める目的に因数分解

――日本企業の間では、SDGsに対する正しい理解が遅れているように見えます。

 SDGsに対するもう1つの誤解が、SDGsはCSR(企業の社会的責任)である、というものです。社会貢献活動として捉え、専門の部署だけで対応している企業も多い。また、ODA(政府開発援助)活動の対象であるとの意識もあるでしょう。しかし、SDGsが掲げる目標をすべて達成するには、ODAなどの公的資金だけでは全く足りません。民間企業が事業として関与することが不可欠です。これは国際社会では共通認識となっています。世界の商工会議所の集まりである国際商業会議所はSDGsについて、Business Development Goals、つまり"ビジネス開発ゴール"であると明言しています。

 もちろん、SDGsは社会の課題の解決を目的としています。日本企業はもともと、「三方よし」や「浮利を追わず」のように、企業の目的として社会に貢献する意識が自然に備わっています。目標が決まったら徹底してやり抜く生真面目さも日本人の特質です。SDGsの達成に向け、日本企業の果たす役割は非常に大きいと見ています。

――具体的に、SDGsの目標とビジネスをどう結び付けていけばよいでしょうか。

 まず、SDGsは2030年の「未来像」についての全世界の合意事項です。言い換えると、2030年までの、世界中で起きる変化の大きさが定義されたわけです。変化の大きさとは、すなわちビジネス機会であり、それが17のゴール、169のターゲットに集約されたと捉えるべきです。


出典:Japan Innovation Network

 しかし、SDGsはこのままでは一企業が取り組むには大きすぎます。キーワードは「因数分解」です。169の大目的を中目的へ、さらに小目的へと分解する必要があります。私たちはSDGsをビジネスに近い目的となるように分解し、企業が事業として取り組めるビジネスモデルを創り出していく環境を作るプラットフォームとして、国連開発計画(UNDP)と共同で、昨年、SHIP(SDGs Holistic Innovation Platform)を立ち上げました。そこに大企業やスタートアップ、研究組織などを巻き込んで、オープンイノベーションで、SDGsで定義された課題を解決していきたいと思っています。

 例えば、SDGsのゴール6-ターゲット3は「世界の道路交通事故による死傷者を半減させる」です。これは交通事故を減らすことと、救急医療を充実させることなどに分解できます。交通事故を減らすには、信号の設置、車道と歩道の整備、自動運転の実現といった中目的に分けられるでしょう。それぞれの目的について、得意とする企業や大学、政府などが役割分担し、具体的なロードマップを作っていくことを考えています。

――なぜ、オープンイノベーションで進める必要があるのですか。

 多くの日本企業は良い技術を持っているのに、その使い方がわからず、悩んでいるように見えます。先ほどの因数分解の話でいうと、大目的があって、それを分解してこの技術やノウハウが必要だというのではなく、まず技術があり、「これで何かできませんかね」となっている。逆なわけです。

 SDGsはあるべき姿を描いています。そこからバックキャストして具体的なアイデアを探すのです。ゴールが見えているから、様々な技術やノウハウを持った参加者が入ってきやすい。そして、参加することで思わぬ発見があります。様々な国の課題を聞くことで、「その技術なら、うちは普通に使っている」と自社技術の新しい活用法を得られるわけです。

 世界では、社会の課題を起点に事業を生み出す動きが加速しています。私たちの気付いていない課題を発見しているスタートアップが何千社もあります。SHIPには、こうしたスタートアップのほか、途上国からの留学生やNPOなどが参加し、課題を共有しています。日本企業にはぜひSHIPのコミュニティーに参加してほしい。私たちはイノベーションを生み出す手法を知るとともに、実際にそこから事業戦略やビジネスモデルを作っていくプログラムを多数用意しています。構想力を高めるには練習あるのみ。そこから真剣勝負ができる力を付けていただければと思っています。



西口 尚宏(にしぐち なおひろ)氏

上智大学経済学部卒、ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院でMBA。日本長期信用銀行、世界銀行グループ人事局(ワシントンD.C.)、マーサー社ワールドワイドパートナー、産業革新機構 執行役員などを経て現職。一般社団法人日本防災プラットフォーム代表理事、パーソルホールディングス株式会社 社外取締役。

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