「電力・ガスの全面自由化は何をもたらすか」

2016年10月20日

東京理科大学 大学院
イノベーション研究科教授
橘川 武郎 氏

橘川 武郎 氏

 2016年4月の電力小売り自由化に続き、17年4月には都市ガス市場も全面自由化が予定される。ガス市場は電力に比べ参入障壁が高く、競争が起こりにくいとの見方もあるなか、どのように自由化を進めていけばよいのか。効率化と温暖化対策や安定供給とをどう両立させていくべきか。エネルギー市場改革に詳しい橘川武郎・東京理科大学大学院イノベーション研究科教授に聞いた。

ガス市場は小口より大口の競争が激化

――ガス市場の全面自由化が半年後に迫りました。競争の行方をどう見通していますか。

 電力市場の自由化と比べるとわかりやすいでしょう。1年前の今ごろは、すでに関西電力や中部電力などが東京電力の営業エリアである首都圏での小売り参入を表明していました。料金メニューの準備も進んでいたでしょう。しかし現在、東京ガスのエリアに大阪ガスや東邦ガスが参入するといった動きはまったく聞こえてきません。

 なぜか。ガス参入には2つの大きな壁があるからです。1つは販売する天然ガスを調達できるのが、ガス会社以外では事実上、電力会社しかないこと。しかも、ガス市場には電力のような卸取引所がないため、新規参入者が卸取引所から仕入れて小売りするということもできないのが実態です。

 もう1つの壁は保安・点検サービスです。ガスを売るには各家庭を回ってガス機器を点検する必要があります。しかし、現在の日本でドアをノックして開けてもらえるのは、宅配便、宅配スーパー、速達を配る郵便配達員、そしてガス会社の点検員くらいしかいません。さらに靴を脱いで上がり込めるのはガス会社だけでしょう。電力会社も検針はしますが、フェース・トゥ・フェースで話せる営業力ではガス会社にかなわないのです。

――自由化しても競争はあまり起きないということですか。

 電力会社が参入するには、他地域の都市ガス会社と組むのが一番いい。たとえば、東京電力なら大阪ガスと組んで、東京ガスのエリアを攻めたいところです。ただ、現状は都市ガス会社が越境参入する動きは見られません。そこで、セカンドベストの策として、LPガス会社と組む動きが出ています。東京電力は日本瓦斯(ニチガス)やTOKAIと提携しました。関西電力は岩谷産業と組んでいます。

 もう一つ、小売り自由化とは別のところで、競争を促す動きがあります。ガス小売りへの新規参入者は新たに導管を敷設せず、既存の導管を使わなければならないという「二重導管規制」が緩和されるからです。この結果、電力会社は熱量を調整していない安価なガスを、自社導管を使って大口需要家向けに販売することが可能になります。たとえば、LNG火力発電所の近くにある工場などの顧客は、電力がかなり奪うかもしれません。

 そもそも、二重導管規制を緩和する理由は、ガス料金の低下を促し、鉄鋼や化学などが集積するコンビナートの国際競争力を引き上げることです。つまり、東京湾や伊勢湾などに工場を持つ大口顧客には相当の恩恵がありそうです。一方、家庭用など小口市場では参入の壁が高く、今のところ消費者への恩恵はあまり期待できそうにありません。


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