「大学がけん引するエネルギーイノベーション」

2015年11月26日

早稲田大学 理工学術院 教授
スマート社会技術融合研究機構長
林 泰弘 氏

林 泰弘 氏

 省エネや再生可能エネルギーの活用を通じて持続可能な社会をめざす取り組みが、企業や大学で活発になってきた。中でも、早稲田大学が2014年に設立した「スマート社会技術融合研究機構(ACROSS)」は、日本を代表する35の企業が参加し、省庁もオブザーバーとして連携する産学官による先駆的な研究で注目を集める。機構長を務める早大理工学術院の林泰弘教授に設立の狙いや成果などを聞いた。

トータルデザインを「学」が担う

――ACROSSを設立する以前から、電力の需要と供給を柔軟にコントロールするスマートグリッドなどを長年、研究してこられました。日本のエネルギーを取り巻く環境は大きく変わっているようですね。

 今年5月、政府は2030年のエネルギーミックス(電源構成)を取りまとめました。特筆すべきは、本来なら右肩上がりで増える電力需要を省エネで17%程度削減する方針を電源構成に盛り込んだことです。さらに、再生可能エネルギー(再エネ)の比率を19~20%とし、原子力の17~18%より大きくしました。省エネと再エネを合わせると全体の約4割にも達します。

 一方で、エネルギーシステムの制度改革も進んでいます。2016年には電力小売り、2017年はガス小売りが、それぞれ全面自由化され、消費者は電気・ガス事業者を自由に選べるようになります。住宅や建築物の省エネ基準も改正され、電気を作り出す「創エネ」や設備性能も基準の対象となります。太陽電池や蓄電池の利用が大幅に進むと見込まれており、まさにエネルギーイノベーション時代の到来といえるでしょう。

 太陽光や風力といった再エネは発電出力が安定しません。不安定な電気が電力系統に多く入ってくると、需要と供給をバランスさせるのが難しくなり、大停電を引き起こす可能性もあります。スマートグリッドは天候や過去の電力使用パターンなどから需要を予測して供給量を制御したり、供給量に合わせて電力使用を無理なく減らしたりする技術です。

 今後、再エネが増えてくると、大規模な火力発電所の運転を止めるといった場面も考えられます。全面自由化により、発電や小売りに参入する事業者が増えるほか、地域を越えた販売も活発になり、広域的な電力の融通が必要となってきます。このため、日本全体で電力の安定供給をきちんと考え、コントロールする仕組みが不可欠となるわけです。

 エネルギーだけではありません。自動車や工場・倉庫、道路や橋梁の保守などでも、センサーやビッグデータ、人工知能といった技術の活用が急速に進んでいます。内閣府の総合科学技術・イノベーション会議が示した「超スマート社会」のイメージでは、当面は個別の分野ごとに技術が高度化していき、将来は各システムが分野や地域を越えて結びつき、日本が得意とする技術基盤の上で統合していく姿を理想としています。

――超スマート社会の実現に向け、昨年7月にACROSSを設立され、トップに就かれました。経緯と狙いを教えてください。

 これまでの産学連携は個別のテーマについて、個々の大学と企業が共同研究するパターンが一般的でした。しかし、超スマート社会の実現には、もっと幅広い分野同士の連携が必要となります。ところが、日本は個々のインフラやモノづくりでは強いのですが、全体をまとめるトータルデザインや異業種連携は苦手です。誰が超スマート社会をデザインし、現実の社会に実装する道筋をつくるかが大きな課題となっています。

 そこで考えたのが、産学官のうち、「学」が中心となって全体デザインをけん引するプラットフォームを用意し、そこにテクノロジーを持つ「産」と、ルールづくりを担う「官」が連携していく仕組みです。なぜ大学が中心なのかというと、中立的な立場で、一歩引いて世の中全体を俯瞰しながら、新しい価値をスピーディに実現できると考えたからです。


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