「"電力自由化"と"水素"を両輪に加速する社会イノベーション」

2015年10月2日

東京工業大学
特命教授・名誉教授
柏木 孝夫 氏

 2016年4月からの電力小売り全面自由化に続き、2020年に電力会社の送配電部門の分社化、2020年以降に小売り電気料金の規制撤廃が実施されることも決まり、電力システム改革が総仕上げの段階を迎える。一方で、量産型燃料電池車(FCV)発売などを機に、新たなクリーンエネルギーとして水素への注目も急速に高まっている。これらの動きは日本の成長戦略にどうつながっていくのか。目指すべきエネルギー社会の未来像とともに、東京工業大学の柏木孝夫教授に聞いた。
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自由化で予想される料金・サービスの多様化

――来年4月にいよいよ電力小売りが全面自由化されます。

 自由化の意義は、市場原理に基づき、合理性が働く世界を実現するところにあります。より効率的で環境性に優れ、コストが安いエネルギーへと淘汰が進んでいく。

 これまでは需要ありきで、ピークに合わせて大規模な発電所をつくってきたため、日本の発電所の平均稼働率は56%にとどまっています。しかし、2020年以降に予定されている料金規制撤廃で、総括原価方式による電気料金へのコスト上乗せができなくなると、1年で数日しか動かないような電源に投資することはできなくなります。

 もちろん、エネルギーは生活や産業の基盤ですから、安定供給を堅持する必要がありますし、「安かろう悪かろう」ではいけません。もともとバリューチェーンがつながっているガスや熱と一体で議論を進めて、効率的なエネルギー利用を促し、複合的なシナジー効果を出していくことも求められます。そうした流れをきちんと担保するような制度設計が、これから重要になってくると考えています。
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――電力市場には、どのような変化が起こるとみていますか。

 1998年に電力全面自由化に踏み切ったドイツでは、8社あった一般電気事業者が、自由化で4社にまとまり、新規参入者と競合する構図になりました。発電市場におけるこの4大電力会社のシェアは、自由化当初で80%程度、2013年は68%となっています。

 市場構造が似ている日本でも、同じようなことが起こるのではないか。すなわち、当初は日本の発電電力量の2割程度、最終的には3割程度を新規事業者(新電力など)が獲得するのではないかとみています。その過程で、通信やケーブルテレビ、ガスなど他のサービスと電気のセット販売をはじめ、メニューや料金体系の多様化が進むでしょう。
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――家庭のエネルギーに対する向き合い方も変わってきそうですね。

 料金が一律で、使った量に応じて課金されるだけだった時代と違い、自由化が進むと、さまざまな選択肢が増えることになります。スマートメーターとHEMS(家庭用エネルギー管理システム)に、太陽光発電、燃料電池による家庭用コージェネレーション(熱電併給)システムの「エネファーム」、車の蓄電システムやさまざまなデジタル家電がつながって、電気代が高い時間帯にはうまく消費を抑えて電気を売りに回る、といったことも可能になるでしょう。

 そうなると事業者には説明責任が問われますし、ユーザーも自由化の恩恵を受けるためには、それぞれが自分に合ったメニューを見極めて、管理する必要がでてくる。自分の家はどういうエネルギーの使い方をしているのか、どうすれば通信やガスを含め、自分たちの生活に合った形で最適化できるのか。需要と供給は表裏一体ですから、自由化が実効性を上げるためには、そうした家庭部門の「参画」が鍵を握ります。

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