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スマホで話せば体調がわかる~音声病態分析が開く未来の医療

東京大学大学院医学系研究科 音声病態分析学 光吉俊二氏 徳野慎一氏

 スマートフォン(スマホ)で普通に話すだけで自分の健康状態がわかる――。ICT(情報通信技術)を医療に活用するユニークな研究を東京大学などが進めている。忙しいビジネスパーソンや、病院に通いづらい高齢者にとって、体調の変化を自宅で早期に見つけられればメリットは大きい。研究を進めるのは美術大学の彫刻科出身の光吉俊二氏と、自衛隊員のストレス研究などを手掛けてきた徳野慎一氏。"異色のコンビ"が「未病」対策の新たな領域を切り開く。

声にはホンネとタテマエが表れる

光吉 俊二氏(みつよし しゅんじ)<br>

東京大学大学院医学系研究科 音声病態分析学 特任講師。<br>

1988年多摩美術大学美術学部彫刻科卒。2006年徳島大学大学院工学研究科博士課程修了(工学)。エイ・ジー・アイ代表取締役、株式会社AGI代表取締役、PST株式会社代表取締役社長などを経て2014年から現職。 光吉 俊二氏(みつよし しゅんじ)
東京大学大学院医学系研究科 音声病態分析学 特任講師。
1988年多摩美術大学美術学部彫刻科卒。2006年徳島大学大学院工学研究科博士課程修了(工学)。エイ・ジー・アイ代表取締役、株式会社AGI代表取締役、PST株式会社代表取締役社長などを経て2014年から現職。

 「最初は怪しいなあと思った」。徳野氏は光吉氏との出会いを振り返って笑う。2人は現在、東大大学院医学系研究科の音声病態分析学講座で研究を進める。徳野氏が特任准教授、光吉氏が特任講師だ。同講座は2014年9月に開設。東大が推進する「自分で守る健康社会」と呼ぶオープンな研究プロジェクトにも2015年4月から参加している。

 音声病態分析とは、人の声に含まれるさまざまな感情や興奮の度合いを測定し、健康状態を判断すること。喜びや悲しみといった感情は脳から副交感神経系の反回神経(迷走神経)を伝って、声帯や心臓につながっている。緊張すると心臓がドキドキしたり、声が上ずったりするのは反回神経の働きによる。これは自分の意思では制御できない「不随意反応」であり、いわば「ホンネ」が表れる。

 一方、人が声を出す際には、自分の意思で口や舌などを動かし、言葉や感情を表現する「随意」の部分もある。この「不随意」と「随意」の部分を組み合わせて分析することで、「うつ病や脳梗塞で病院に通院している患者と健常者とをほぼ完全に分けることができるようになった」(徳野氏)という。ただ、ここまでの道のりは平たんではなかった。

ストレスが伝わる経路 ストレスが伝わる経路

 そもそも光吉氏が1990年代に音声認識の研究を始めたのは、彫刻家として活動するかたわら、コンピューターグラフィックス(CG)を使った映画制作に携わったのがきっかけだ。当時のCGソフトは使いづらく、「監督が声で指示するだけで、キャラクターを動かせないか」というアイデアを思いつく。当時は音声を聞き分ける技術も未発達。そこで、感情さえ認識できればコンピューターは動くのではないかと考え、独自に研究を始めた。

 最初は感情を表す言葉に着目。しかし、テキスト情報だけでは感情の違いを認識できないことがわかったため、同じ言葉でも音声に焦点を当てる。感情の微妙な動きでも脳から声帯に伝わること、その反応は自分で制御できないホンネであること、などから「工学的に分析できるのではないか」(光吉氏)と見通しを立てた。

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