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医療という難問、人工知能は解決できるか

マーティン・フォード 氏

医療という難問

 2012年5月、55歳のある男性患者がドイツのマールブルク大学のクリニックに搬送されてきた。患者には、発熱と食道の炎症、甲状腺ホルモンの数値低下、そして視力の低下が見られた。

 それまでにも何人もの医師にかかっていたが、誰もがその症状を見て首を傾げるばかりだった。そしてマールブルクの病院に来た時点で、視力はほとんどなく、心臓も停止寸前だった。

 その数カ月前、海を隔てた大陸では、デンバーのコロラド大学メディカルセンターで心臓移植手術を受けた59歳の女性に、それときわめてよく似た謎の症状が起きていた。

 この両患者の謎の病の正体は、じつは同じものであることがわかった。コバルト中毒だ。どちらの患者も以前に金属製の人工股関節を入れる手術を受けていた。その金属のインプラントが時間とともに磨耗し、コバルトの粒子を放出して患者を慢性的な中毒に陥らせていたのだ。驚くべき偶然の一致で、この2つの症例を紹介する論文が、2014年2月のほぼ同じ日に、2つの主要な医学雑誌に発表された。

 ドイツの医師の報告によると、アメリカの医療チームが手術に頼ったのに対し、ドイツのチームは思いも寄らないところから謎を解明した。それは医療の訓練によるものではなく、ひとりの医師がテレビ番組『ハウス』の2011年2月の放送分を見ていたおかげだった。その回のエピソードで、主人公のグレゴリー・ハウス医師は同じような患者に接し、ある独創的な診断を下した。金属製の人工股関節インプラントによるコバルト中毒である、と。

 2つの医師団が同一の診断を下すのに苦労することがあるという事実、そしてその謎の答えをプライムタイムのテレビで何百万人もの視聴者が見ていたという事実は、医療知識と診断のスキルがいかに個々の医師の頭のなかで細分化しているかを示す証拠だった。インターネットのおかげで、医師間の協力や情報へのアクセスが前例のないほど可能になった現代でも、こういうことは起こる。

 そして結果的に、医師たちが病気を診断し治療する際の根本的なプロセスは、重要な意味で比較的変化していない。この昔ながらの問題解決へのアプローチを覆し、個々人の頭のなかにしまいこまれたままの情報や、無名の医学雑誌に発表されただけの情報を残らず引き出せることが、人工知能やビッグデータを医療に適用することで実現される最も重要な利点のひとつだろう。

 総じて見ると、他の経済領域で断絶的破壊を引き起こしている情報テクノロジーの進歩も、これまでのところ医療部門にはあまり食い込んでいないようだ。とりわけ、テクノロジーが効率性全般の改善に役立っているという証拠はなかなか見つけにくい。

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