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オサムイズム "小さな巨人"スズキの経営

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スズキの強運、宿敵の失脚を経てVWに逆転勝訴

ナカニシ自動車産業リサーチ 中西孝樹 氏

 国内軽自動車トップのスズキは6年前、「次の30年の道筋」をつくるための一手として、独フォルクスワーゲン(VW)との包括提携に踏み切った。だが、「イコールパートナー」を掲げるスズキの思いに反して、VWの狙いはスズキの支配だった――。

 VWによる敵対買収を恐れたスズキは2011年、ロンドンの国際仲裁裁判所に対し、包括契約解除とVWが保有するスズキ株式の買い戻しを求める提訴に踏み切った。スズキにとってアウェイとなるこの裁判で、VWは「牛歩」戦術を展開。時間稼ぎによってスズキの弱体化を狙っていた。事前予測では「スズキ不利」との見方が主流だった。その経緯については前回の『スズキの恐怖「VWによる敵対買収」』をご覧いただきたい。

異常なまでに遅れた仲裁判決

 2014年3月、約2.5年の時を経て、ようやく仲裁人の審議が結審する時期が訪れる。

 本来であれば、そこから1カ月もあれば判決が下される。しかし、VWの要請に基づき、なんらかの理由で、結審の延長が決定された。

 そして9月、仲裁人との最後の審議が終了した。これでこの案件は正式に結審となり、いつ判決が下されてもおかしくない状況となった。それにもかかわらず、理由不明のまま、時間だけが過ぎていく。

 年末までに判決が出ることは間違いないといわれ、スズキ社内には連日ピリピリした空気が満ちていた。しかし、欧州に住む仲裁人たちがクリスマス休暇に入ってしまう。2015年3月、「今度こそ」というタイミングを迎えたが、ここでも理由は不明だが不発となる。

 提訴から3年以上経っても判決の出ない、異常な状態となってきたのだ。

<b>鈴木修会長</b> (撮影:佐々木孝憲) 鈴木修会長 (撮影:佐々木孝憲)

「こんな調子でいて、6月の株主総会に間に合うのか」

 鈴木修のいらだちはピークに達する。修は、2つの重大な経営課題を抱えていた。最大の経営課題が、経営継承を実現させること。そして、スズキの次の100年の基盤となる事業戦略を構築することだ。

 判決を待って、スズキの行く道をきっちりと示したうえで、この2つの重要課題へ踏み込むというのが、修が描き続けたシナリオであった。計算はすっかり狂ってしまった。遅れるほどにスズキの経営へのダメージは拡大し、修は焦りの色を隠せなくなる。

 4年にもおよぶVWとの係争は、スズキ最大の課題である経営継承がとんでもなく遅れてしまうという、大きな問題を生み出してしまった。修は2011年にすでに、長男で当時代表取締役副社長だった鈴木俊宏を、7代目の社長に指名する腹を固めていた節がある。

 しかし、VWとの包括提携が暗礁に乗りあげ係争に発展してしまったことで、続投を決断した。2008年から実に7年間も、不本意ながら、会長兼社長の超ワンマン体制を続けざるを得なくなった。

 早ければ2014年にも社長交代を目指したが、仲裁の判決は届かず、流れてしまった。

 2015年はもうあとがないラストチャンスだ。これを逃すわけにはいかないのである。修を含めスズキの経営陣は、焦りを隠せなかった。

 そこに飛び込んできたのが、宿敵ピエヒ失脚という、驚きを超えた一報であった。

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