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「くらべる」ことでおトク感を演出

田中公認会計士事務所所長 田中 靖浩氏

 私たちは、ある商品、あるサービスを「ひとつだけ」見て、それを買うのが苦手です。でも何かと何かを「くらべる」ことができると一気に判断しやくすなり、「こっち!」と選ぶことができます。「くらべる」ことで楽になる――これがアンカリングの本質です。

耳の遠い仕立屋兄弟の話

 アメリカのキッチン用品店ウィリアムズ・ソノマは、高級家庭用パン焼き器を279ドルで売り出しました。あとになって、少し大きなモデルを429ドルを追加して売り出しました。この大きな高価格製品が登場したことで、小さな279ドル製品の売り上げが2倍近く増えたそうです。

 はじめ、消費者は279ドル製品が「高いか・安いか」を判断できなかったのです。ここに429ドル製品が加わったことで「くらべる」ことができるようになりました。「くらべる」ことで消費者は279ドル製品のおトク感を実感でき、これで販売が伸びたというわけです。

 1930年代、紳士服店を営むシド&ハリー兄弟の物語です。

 鏡を前に試着するお客さんから価格を聞かれたシド、奥で仕立てをしているハリーに向かって「このスーツいくらだっけ?」と尋ねます。「オール・ウールの最上級のやつだね、42ドルだ」と、実際より高い価格を答えたのは、奥で仕立てをしているハリー。

 シドは耳が遠いふりをして、「え、いくらだっけ?」ともう一度尋ねます。「42ドルだって!」と、再び奥のハリー。シドはお客に向かって「22ドルだそうです」。客は急いで22ドルを払ってスーツを買い、そそくさと店をあとにしたそうです。

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