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グローバル競争時代のものづくり ~日本企業復権への10カ条

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グローバル市場を最速制覇、サムスン流スピード決定術とは

東京大学大学院経済学研究科  ものづくり経営研究センター特任研究員 吉川良三 氏

✕ 日本企業の意思決定はボトムアップ方式
         
◯ 実態は即決とはほど遠いトップダウン方式


  サムスンをめぐる誤解の1つに、「強烈なトップダウンだから意思決定のスピードが速く、大胆な決断ができる」というものがある。一方、日本企業の意思決定スピードが遅いのは一般に、「下からの意見を吸い上げて全体をまとめていくボトムアップ型のプロセスに原因がある」と考えられているようだ。

 しかし、実態はむしろ逆で、サムスンが「即決につながりやすいボトムアップ方式」なのに対し、日本企業は「即決とはほど遠いトップダウン方式」なのではないか。そして、この意思決定方式の違いが、両者の経営スピードに大きな差を生み出しているのではないか、と筆者はみている。

「意思決定のスピード」が物を言う時代

 ものづくりのデジタル化が進み、新興国が消費、生産の両面で台頭してきたグローバル市場においては、"スピード"と"思い切った投資"が勝敗を決する。とにかく大事なのは、「先頭を走る」こと。二番手であればわずかなおこぼれにあずかれる程度で、三番手以降には利益はないというのが、世界標準の考え方だ。

 トップになるということは、生産性を上げる、あるいは1個当たりのコストを下げるということを意味する。市場にいち早く乗り込んで、トップのシェアを獲るからこそ、固定費の負担を軽くし、原材料の調達コストも下げることができるし、次の投資余力が生まれてライバルに差をつけることができる。「デジタルものづくり」の利点を最大限に生かし、市場ごとに派生モデルのバリエーションをもたせながら、より多くの製品を安価で提供する体制を整え、グローバル化の果実(利益)を手中にすることができるのだ。

 サムスン電子の李健熙(イ・ゴンヒ)会長は常々、「ナンバーワンになれ」と言っていた。日本の電機メーカーは、オンリーワンだ、独自技術だといって、三番手四番手に甘んじていたから、今日のように人員を削減したり、工場を売ったりしなくてはならなくなったともいえよう。

 「世界で何が起こっているのか?~ものづくりの勢力図を塗り替えたグローバル化とデジタル化」で、グローバル競争は「リーグ戦」ではなく「トーナメント戦」だと述べた。リーグ戦なら敗者復活の機会は何度もあるが、トーナメント戦は、どんな優勝候補であっても、一度負けたら次はない。トーナメント戦においては、1位にならなければ市場を支配することはできない。産業構造のグローバル化が進んだことで、この優勝劣敗の構図は、以前にもましてシビアになっている。こうした状況にあるからこそ、従来以上に意思決定のスピードが問われているのだ。

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