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日本企業の競争力を奪った統治改革の失敗 経営はだれのものか

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意思決定を歪めた過剰なリスク管理と法治主義

加護野 忠男 氏

 この連載の第1回で、①日本の上場会社はキャッシュを溜め込み、投資をしなくなったこと、②連続的なイノベーションばかりで飛躍を伴うような戦略的イノベーションをしなくなったこと、また③従業員の処遇を劣化させてしまったことを指摘した。それに次いで、バブル崩壊以降行われた企業統治制度改革をいくつか取り上げ、それらが、企業における意思決定を歪めてしまった理由を考えてきた。

 個別に見ると、企業統治制度改革がよい経営につながらなかった理由が明らかになったであろう。だからといって、最近の停滞のすべてが統治制度改革によってもたらされたとはいいきれない。バブル崩壊以降の長引いたデフレも無視できない理由である。しかし、統治制度改革がデフレの影響をより深刻にしたという側面も否定できない。

 この最後の回では、まず、企業統治制度改革が日本の企業の低迷につながった理由を総合的に議論しよう。この連載で取り上げなかった改革もいくつかある。それらも企業経営に悪影響を及ぼした。企業経営に焦点を合わせ、制度改革と外部環境が企業にどのような悪影響を及ぼしたかも議論したい。

 そして最後に、制度を決める人々がなぜこのような誤りを起こしてしまったのかを考えることにしよう。

リスク耐性の低下

 腰の据わった投資が行われなくなった第一の理由は、日本企業がリスクに挑戦するだけの体力を失ってしまったことである。もともと日本の企業はリスクに関して保守的であった。従業員の長期的な雇用責任、顧客に対する長期的な供給責任、供給業者に対する長期的な購買責任など、長期的な責任を重視してきた日本企業は、企業の長期的な存続を重視し、それを危うくするようなリスクには保守的にならざるを得なかった。

 それにもかかわらず、高度成長期の日本企業は腰の据わった投資をして飛躍的イノベーションを行ってきた。なぜそれが可能だったか。リスクへの挑戦が思い通りの結果を生まなくても、企業を存続させていくことができるだけの備えがあったからである。

 かつての日本企業は、潤沢な留保利益を持っていた。多過ぎるという批判もあったほどである。ところが、長引く不況と株主志向の経営改革というスローガンのもと、企業は内部留保を吐き出してしまった。株式持ち合いが解消され、投資家の影響が増大するにつれ、株主還元を増やそうとする市場からの圧力も強まった。

 とくに責任が重いのは、アクティビストと呼ばれる投資家たちである。経営者に圧力をかけて株主への還元を増やし、株価をつり上げて短期的利益をあげようとする投資家である。企業経営に及ぼした悪影響を考えると、犯罪に近い行為である。経済学者のなかにはこのようなアクティビストを評価する人々さえ出てきてしまった。アクティビストは経営者の規律付けに貢献しているという乱暴な議論である。

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