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なぜ財布のひもは緩むのか、巧妙な「価格の心理戦」

トライバルメディアハウス 池田紀行氏

 ちなみに、日本での端数価格は98円や9800円など「8」が一般的だが、欧米では99セントや999ドルなど「9」が一般的だ。トイザラスやIKEAなどの外資系小売店では、日本の店舗でも端数は「9」を採用している。日本人からすると、1セントでも1ドルでも利益を増やしたいという商魂のたくましさを感じてしまうが、実はこれ、特殊なのは日本の方なのだ。一説によると、日本で端数の「9」を使わないのは、「9」=「苦」を想起するため、縁起が悪いと敬遠されたという説が有力らしい。なんとも日本らしい文化的背景である。

 この端数価格戦略は、シャンプーの298円、液晶テレビの9万9800円、マンションの2980万円など、すべての価格帯で通用する。ただし、端数は(1000円ではなく)980円のように、桁が1つ少なくなるときに特に効果が大きくなる。250円が248円になっても、大台割れのときのような大きな変化は発生しない。

 スーパーが「税抜きの価格表示」にこだわるのは、このような端数価格が使いにくくなることが一因となっている。消費税が5%の場合、内税表示にすると、98円の商品が103円になってしまうからだ。昨年10月以前のスーパーで、端数価格で売られていた商品は、消費税分の利益をスーパーが負担しているか、もしくはメーカーが納入価格を割り引いていたからである。そのくらい端数価格戦略は「効く」のだ。

価格にみる東京人と大阪人の違い

 以前、県民性研究の第一人者である矢野新一氏から、「東京人はいかに高く買ったかを自慢し、大阪人はいかに安く買ったのかを自慢する」という話を聞いたことがある。東京人にとっての購入価格は「見栄」や「ステータス」を表すもの。一方、大阪人にとっての買い物や値切り交渉はエンターテインメントであり、どれだけ安く買うことができたかは「交渉力」や「賢さ」を表すものだという。

 ナショナルチェーンのバイイングパワーが強大になり、店頭価格の支配力がメーカーから小売業に移ってしまったため、メーカーのマーケティングの現場で価格戦略が語られることは比較的少なくなった。それでも、ここでは紹介しきれないほど様々な理論や経験則がある。繰り返しになるが、価格は、1人の消費者として、私たちが日常的に触れる企業のマーケティング戦略の最前線だ。お財布を開くたびに「価格(によって受けた心理的影響)」を意識し、メーカーや小売店との心理戦を楽しんでみてはいかがだろうか。


池田 紀行 (いけだ のりゆき)

トライバルメディアハウス代表取締役社長。1973年横浜市生まれ。ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、ネットマーケティング会社クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表を経て現職。キリンビール、P&G、トヨタ自動車などのソーシャルメディアマーケティングを支援する。『Facebookマーケティング戦略』『ソーシャルインフルエンス』『キズナのマーケティング』など著書多数。Twitter:@ikedanoriyuki、Facebook:http://www.facebook.com/ikedanoriyuki

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