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国別に見る新興国ビジネス最新事情

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新興国消費市場に向けた"攻め"の営業体制を構築するには

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 コンサルティング・国際事業本部 国際本部 グローバルコンサルティング部 プリンシパル 澤村 隆之 氏 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 コンサルティング・国際事業本部 国際本部 グローバルコンサルティング部 プリンシパル 澤村 隆之 氏
 新興国のボリュームゾーンと言われる中間層市場までを視野に入れ、事業展開を図るB to Cの企業が増えている。これまでは日本の「ハイエンドブランド」というイメージを活用して、現地の超富裕層をターゲットに設定する企業が多かった。しかし最近は、所得水準が上昇する都市部を中心に、対象顧客を富裕層からアッパーミドル層まで拡大して、マーケティング戦略を練り直すケースが目立つ。一方で、実際の販売活動に携わる営業体制の方は、この変化に必ずしも対応できていないケースがあるようだ。

「行き当たりばったりの営業」では通用しない

 ターゲット顧客層が広がれば、マーケティング戦略も変化するわけですから、実際に販売を推進する営業体制も、再評価や見直しが必要になるはずです。しかし実際には、自分の担当国・地域への出張だけで手一杯だったり、具体的な販促戦術はおろか、未開拓市場の特定といった作業も現地の代理店にお任せだったり、同じ担当者が特定の国を担当し続けていて、隣に座っているのにお互い隣国のやり方を知らなかったり、といった状態にあることが多いように見受けられます。その結果、「実は新興国営業の成功パターンが確立できていない」という現実に突き当たる企業が増えているようです。

 海外での販路展開の方針決め、例えば直営の販売拠点なのか代理店なのかといった選択や、既存の代理店の経営状態や販売パフォーマンスについての定期・不定期のレビューといった業務に、必ずしも十分なリソースが割かれていない場合もあるようです。海外展開の歴史が長い企業ほど、そういった傾向が強いように感じます。もともと海外市場開拓という業務は、過去にトップマネジメントが自ら動いたり、海外在住経験のある少数の人材のリーダーシップの下で進んだりした歴史が背景にあることが多く、結果的に特定の人の特殊技能のように扱われて、他の部門の人が安易にタッチすることがはばかられる「社内聖域」になりやすいのでしょう。

 新興国の経済成長に乗って順調に売り上げが伸びている間は"聖域扱い"でもかまわないのですが、他社との競合が激しくなってくると、そうも言っていられなくなります。日系の他社のみならず、アジアの若年層を中心にブランドを確立しつつある韓国企業などの動きを見れば、従来の売り方でいいのか、という疑問が湧いてきます。展開している国・地域をすべて横並びで比較してみると、人口や1人当たり国内総生産(GDP)といった基礎的な指標で想定した潜在市場規模に対して、自社の売り上げはなぜこの程度なんだろう、と聞きたくなります。経営企画部門からは、海外営業部門に向けて「もっとできるはずだ」と指示が飛ぶわけですが、肝心の海外営業部門がそれに応えられる体制になっていないことがあります。

 例えば本社の海外営業部門と現地の販売代理店との関係を考えてみると、販売地域や対象商品の定義といった重要な取り決めが明文化されていない場合があるほか、ブランディングや末端の小売チャネルの選定といった面でも、現地の代理店に結果的に多くを依存してきた構造があるようです。海外、特に新興国市場に対する期待が本格的に高まったのはここ数年のことで、本社サイドの海外営業チームの規模がその売り上げ期待に追いついていない、という企業も多いようです。中には1人で10カ国近くも担当し、過密な出張スケジュールをこなしながら、売り上げの多寡にかかわらず全ての国・地域を回る、といったスタイルが定着しているケースもみられます。

 こうした状況では、「これからは富裕層に加えて中間層を攻める」という事業方針が決まったとしても、それを実行に移すのは至難の技でしょう。いざ実行となれば、中間層向けの商品の開発方針や新しいブランド戦略といった情報を現地代理店に正確に伝え、現行の契約内容の追加・変更の可能性も踏まえた「組織立った」説明と交渉が必要になりますが、これまでのルートセールスのパターンの中にあっては時間も情報も足りない、という現実にぶつかるのではないかと思われます。現地の代理店の立場からすれば、これまで「自由に」売ってきたのに、いきなり納得のいく説明もないまま販売方針を変更されたら、顧客も収入も減ってしまう、と身構えます。これでは話が進まなくなります。

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