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協力:NEC

首都直下地震に備えるビッグデータ

ICTの進化を災害対策にどう生かすか?

 東に西に、北に南に。午前7時頃から活発さを増した首都圏の人々の動きが、真っ昼間にもかかわらずパタリと止まった。東北地方の三陸沖を震源とするマグニチュード(M)9.0の巨大地震が発生した2011年3月11日、午後2時46分過ぎのことだ。

 あの瞬間、東京駅から半径30キロメートル圏内には、東日本旅客鉄道(JR東日本)と私鉄各線で合計950本以上の鉄道が運行していたが、発震後にすべてが停止。主要な交通手段を失った人の流れは、鉄道の運転再開率が30%前後に達する午後11時頃まで停滞が続いた。

人の動きをリアルタイムで把握することが可能に

 これまで断片的な情報しかなかった当時の首都圏の様子を、一画面上に如実に再現したアニメーションがある。人々の動きに関する多様かつ膨大なデータの利活用促進に向けた研究に取り組んでいる東京大学空間情報科学研究センターの「人の流れプロジェクト」(代表:関本義秀東大准教授)が、動画共有サイト「YouTube」で公開中(注;現在は非公開)の「東日本大震災当日の人々の流動状況」だ。地震発生直前まで高速でひっきりなしに行き交う人々の動きや、移動中の人々が密集して真っ白に浮かび上がる都内主要駅周辺の状況、地震発生直後に一瞬にして人の流れが止まり、徒歩や渋滞中の車のまだらでゆっくりとした動きに切り替わった後、通勤網の復旧に伴い、郊外に向かって徐々に流れ始める様子を描き出している。

YouTubeで再生(アニメーション作成者:東京大学地球観測データ統融合連携研究機構特任研究員 上山智士氏)

 動画の作成には、「人の流れプロジェクト」で共同研究を行っているゼンリンデータコムの「混雑統計」が用いられている。利用者の許諾を得たうえで最短5分ごとに取得している携帯電話やスマートフォン約20万台分のGPS(全地球測位システム)データを基に、個人がいっさい特定できないよう秘匿処理を施したうえで、混雑状況を表したものだ。これを地図上に方向別に色分けしてプロットし、3月11日未明から翌12日朝にかけての実際の人の流れを可視化した。

東京大学 生産技術研究所 人間・社会系部門 准教授 関本義秀 氏 東京大学 生産技術研究所 人間・社会系部門 准教授 関本義秀 氏

 5年以内に30%弱、あるいは30年以内に70%程度の確率で、首都圏をM7.0以上の直下型地震が襲うと予測されている。防災や減災、復旧、復興の観点で、人の流れを詳細に可視化した関本准教授らの取り組みが社会や企業、個人にもたらすメリットへの期待は大きい。例えば、細かく区切ったエリアごとに被災者の規模を把握し、「状況に応じてリアルタイムに適切な救助隊を編成・派遣するといったことが可能になる」(関本准教授)。カーナビのGPSデータを可視化に使えば、交差点で自動車が数珠つなぎになり動けなくなる「グリッドロック」の発生地点を避け、緊急車両が比較的スムーズに移動できるルートを地図上に浮かび上がらせる可能性も出てくる。

 実は、人の流れを把握する取り組み自体は新しくはない。国土交通省が主導している「パーソントリップ調査」は、昭和42年の開始から45年以上のデータ蓄積があり、全国の都市機能を高度化するのに役立てられている。

 しかし、アンケート形式のパーソントリップ調査では、「今この瞬間」は把握できない。出発地/到着地や出発時刻/到着時刻、移動手段を回答する調査票の配布から回収、結果集計まで一連の作業に少なく見積もっても1カ月は要するからだ。人々の動きを地図上に詳しく再現するには、移動手段を加味しながら出発時刻と到着時刻の隙間のデータを"穴埋め"する作業も発生する。

 今回の「東日本大震災当日の人々の流動状況」は事後的に作成したものだが、GPSを搭載した機器の普及は、このタイムラグの壁を打ち破る。個人を特定できないようにするなどの配慮は欠かせないが、人や自動車の現在地を示す大量のデータは都市圏の大震災への耐性を高め、被害を最小限に食い止めるのに大いに役立つ可能性を持っている。

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