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絆づくりのオウンドメディア論

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生活者に「おもてなし」のコミュニケーションを

トライベック・ストラテジー 後藤洋氏

「我々が一番得意とするのは、優れたエクスペリエンス(体験)を提供することだ」

 これはスティーブ・ジョブズの言葉である。このアップルの基本理念には、モノ作りへのプライドと、そのモノを手にした生活者のコトまでをデザインし、最高のエクスペリエンス(体験)を提供しようとする同社の心意気がうかがえる。製品開発はもちろんのこと、Apple Storeなど同社のWebサイトにもこの理念が浸透している。

生活者の価値観は「モノからコトへ」

 冒頭でジョブズ氏の言葉を引用したのは、日常生活におけるデジタル化が進むにつれ、生活者の心理や購買行動が変わりつつあるからだ。一言で表現すれば、「モノからコトへ」生活者の関心が移ってきた。

 少し古い話だが、「モノからコトへ」を示唆する事例がある。2006年11月に発売されたソニーの「プレイステーション3」と任天堂の「Wii」である。プレイステーション3は、当時はまだ高価だったブルーレイディスクドライブや高性能なグラフィック処理など、魅力的なスペックを満載していた。だが2009年3月にWiiの世界累計販売台数が5000万台に達したとき、プレイステーション3は2200万台ほどであった。販売台数でWiiが圧勝した。

 何が勝敗を分けたのか。そこにはモノでなく、コトに注目した任天堂の戦略が垣間見える。Wiiが生活者に提供したかったのは、モノそのものの価値ではなく、「Wiiをリビングに置いて、体を動かしながら家族全員で楽しむ経験」、つまりコトの価値だったのである。企業は、生活者がモノを使うことによって得られる一連の価値ある経験、つまりコトを伝えることによって、モノの価値を高める努力が求められている。「モノからコトへ」の変化とは、「商品そのものの価値」から「商品によって得られるすべての経験価値」が重視される方向に変わってきているということだ。

一貫・継続した「おもてなし」で生活者との絆を深める

 生活者が求めていることが変われば、企業と生活者とのコミュニケーションのあり方も見直さなければならない。これが本連載のテーマだ。マスメディアを使った広告、ソーシャルメディアや自社Webサイトにおける情報発信をうまく組み合わせて、生活者の経験価値をより豊かなものに変えていかなければならない。

 目指すべきコミュニケーションの方向は色々あるが、ここでは企業と生活者との絆(ブランドロイヤリティー)を築く観点で考えていきたい。モノからコトへ生活者の関心が移り行く時代に、商品・サービスそのものの価値だけをアピールしても生活者は反応しない。そうではなく、企業と生活者とのコミュニケーションによって築かれる経験価値、つまり「絆」を強くすることによって、生活者の購買活動に関与していかなければならないからだ。

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