日本経済新聞 関連サイト

15分で納得、注目キーワードの本質

記事一覧

アベノミクスは"グローバルスタンダードな経済政策"

第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 永浜 利広 氏

今回のキーワード:アベノミクス

 「アベノミクス」というと何か特別な、目新しい政策と受け取られがちだが、決してそうではない。米国をはじめ諸外国で実行されていたにもかかわらず、日本では踏み込んでこなかったことに、遅ればせながら取り組もうとしているにすぎない。国際的にみればごく当たり前の、「グローバルスタンダードな経済政策」と言い換えることもできる。

 経済のグローバル化が進む中で、金融政策は大規模な量的緩和が標準となり、経済連携協定が加速、法人税率は競うように下がっている。こうした世界の流れから取り残されたガラパゴス的な政策が、購買力平価から乖離(かいり)した円高などを通じ、日本企業の収益力の低下、ひいてはデフレの常態化を招いてきた。政策を世界標準に近づけることによって、「円高」「高い法人税」「経済連携協定の遅れ」「労働規制」「環境規制」「高い電力料金」という「産業の六重苦」を解消し、日本経済の活力を取り戻す。そこに「デフレからの脱却」と表裏一体をなすアベノミクスのもう1つのテーマがあるとみている。

金融政策は「異次元」というより「欧米への追随」

 アベノミクスによるデフレ脱却の処方箋は、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」の"3本の矢"からなる。1本目の金融政策は「異次元」と形容されるが、実際にはリーマンショック以降の米国や英国の先例に追随した、グローバルスタンダードな金融緩和といえる。

 日銀は「2年以内に2%」という、他の先進諸国並みのインフレ目標実現に向け、新たな金融緩和の枠組みとして「量的・質的金融緩和」を導入。日銀の資金供給量を示す「マネタリーベース」(市中に出回るお金と金融機関が日銀に持っている当座預金残高の合計)を2年で2倍に拡大することや、上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)の買い入れを拡大することなどを打ち出した。

 確かにこれまでの日銀の政策に比べると大胆な政策のように見えるのだが、米国では連邦準備理事会(FRB)が2008年にリーマンショックが起きた直後から、マネタリーベースを危機前の3倍以上に増やし、住宅ローン担保証券というリスク性資産も大量に購入するなど、市場の予測を上回る金融緩和策を矢継ぎ早に繰り出してきた。就任前から大恐慌の研究家として知られていたバーナンキ議長が、バブル崩壊後の日本の失敗を教訓とし、デフレ回避のため温めてきた持論を実践したのだ。この、それこそ前代未聞の量的緩和が奏功し、米国の株価は危機後半年足らずで上昇に転じ、積極的な通商政策やシェールガス革命の後押しも相まって、最高値を更新するまでに回復したのは周知のとおりだ。

 ちなみにマネタリーベースを国内総生産(GDP)比でみると、日銀は国際的にみても十分金融緩和を行ってきたという意見もあるが、決済の習慣が違うため、この比較は意味をなさない。市場は期待で動くのであって、期待に働きかけるために重要なのは通貨供給量の"変化率"だ。

 3本目の矢である成長戦略も、その中身の多くは「グローバルスタンダードなビジネス環境」に近づけることだ。「産業の六重苦」のうち最大の問題である円高は1本目の矢によって是正されつつあるが、日本企業にとって国際競争上不利な条件はほかにもある。法人税率の国際水準への引き下げ、諸外国に比べ遅れている経済連携協定の推進、厳しい労働規制の緩和など、これまで何度も俎上(そじょう)に載りながら進むことのなかった規制や通商政策にも、メスを入れる必要がある。

 2本目の矢の財政政策については、直接需要を生み出す効果はあるが、日本は先進国で突出した借金を背負っており、長く続けることはできない。あくまで景気回復の初速をつけるための暫定的な措置であるべきで、「機動的な財政政策」が「持続的な財政政策」になることのないよう、注意が必要だ。デフレ回避のため大胆な金融政策を実施している欧米でも、財政は基本的には引き締め方向に舵を切っている。

この記事は会員限定コンテンツです。
続きを読むには、日経BizGateに会員登録(無料)してください。

最初に日経IDを取得し、その後日経BizGateに利用登録します。
おすすめ記事やキャンペーンをお知らせするメールマガジンもご利用ください。

すでに登録済みの方はログインしてください。

今すぐ登録 ログイン

PICKUP[PR]