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デジタル化で飛躍するASEAN

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日本企業のタイ拠点、デジタル化が急務

日本総合研究所 調査部 上席主任研究員 大泉啓一郎氏に聞く

現地に権限、スピード感を

――そうしたタイのデジタル政策を受け、生産拠点の集積を進めてきた日本企業はどう対応していけばよいでしょうか。

 日本の直接投資は中国向けが多い印象がありますが、実は累計額(2016年末)は中国向けが約8兆円に対し、ASEAN向けは約11兆円と上回っています。このうち、タイ向けは4兆円とASEANで最大。中でもバンコク周辺に9割が集中しており、単位面積あたりの日本の製造業の数はバンコク周辺が世界で最も多いとみられます。

タイは工場の集積が進む タイは工場の集積が進む

 タイには自動車メーカーが数多く進出し、グローバルなサプライチェーンの中核拠点と言っても過言ではありません。大規模な洪水で自動車各社が世界規模での供給停止に追い込まれたのは記憶に新しいところです。ここにある工場群の技術レベルをどう高めていくかは、グローバルな競争力維持・向上のために避けて通れない課題となります。

 ただ、日本の先端工場が進めているようなIoTやAI(人工知能)を導入したスマートファクトリーを目指せばよいかというと、そうではありません。多くの日本企業は労務費や土地代の安さからタイに進出しており、生産工程は労働集約的で少し前の世代のものが多い。ドイツのインダストリー4.0の区分で言えば、タイはまだ「2.5」あたりです。まずは、これを3.5に引き上げる。IoTよりも、まずはイントラネットで社内の情報を見える化する。地に足の付いたカイゼンが先決でしょう。

――実際に、日本企業はタイの生産拠点の高度化を進めているのでしょうか。

 私が見る限り、さほど進んでいないようです。現地で働く駐在員は必要性を感じていても、日本の本社の経営陣からすると「利益は出ているからいいじゃないか」とか「デジタル化を進めるとお金もかかるし、雇用を減らすとなると面倒」といった懸念があるのかもしれません。

 しかし、タイの地元企業も急速にデジタル化を進めていますし、ドイツなど欧米の進出企業も手を打ち始めています。さらに、中国の大手IT企業は買収によってタイ企業に最新のデジタル技術を導入していくと見られます。手をこまぬいていては、日本企業が長い期間をかけて築いてきた産業集積の優位性という大きな財産を失いかねません。

 これまで日本企業はASEANを生産・輸出拠点と位置付けてきましたが、イノベーションの場としても活用すべきです。そのためには、スタートアップとの連携やデータを企業同士で共有するといったオープンイノベーションが有効です。日本企業が集積するASEANは絶好の環境にあるわけで、日本の本社は現地への権限委譲を進め、イノベーションを後押ししていく必要があるでしょう。

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