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石澤卓志の「新・都市論」

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不動産のESG投資、企業収益にもプラス

みずほ証券 上級研究員 石澤 卓志氏

環境への貢献は企業収益にもプラス

 CASBEE認証は、どの程度「大家さん」の利益に貢献しているのだろうか。CASBEE認証を受けたオフィスビルのうち、公募REITが保有する物件について賃料と物件利回りを試算し、平均的なビルと比較してみた。ほとんどの不動産会社は個別ビルの賃料を公表していないが、REITは物件ごとの賃貸事業収支を公表しているので、各期の賃料収入を賃貸面積で割ることによって、大まかな賃料水準を推計できる(図表4)。

図表4:CASBEE認証ビルの賃料水準と利回り 注:1. REITが保有するCASBEE認証を受けたオフィスビルについて賃料水準と物件利回りを推計し、平均水準と比較した。サンプル数は①が52物件、②が60物件。<br>

  2. 「大規模ビル」は延床面積3万㎡以上、「大型ビル」は同1万㎡以上3万㎡未満、「中型ビル」は同5,000㎡以上1万㎡未満、「小型ビル」は同5,000㎡未満。<br>

  3.「賃料水準」の「平均水準」は、三幸エステート(株)による2017年末時点の資料を基に設定。<br>

  4.「物件利回り」は、NOI(Net Operatig Income、純収益)ベース。「物件利回り」の「平均水準」は、日本不動産研究所「不動産投資家調査」(2017年10月時点)の取引利回りを参照して設定。<br>

  5.「東京都心3区」とは千代田区、中央区、港区。「東京圏」とは、東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県。<br>

出所:みずほ証券 注:1. REITが保有するCASBEE認証を受けたオフィスビルについて賃料水準と物件利回りを推計し、平均水準と比較した。サンプル数は①が52物件、②が60物件。
  2. 「大規模ビル」は延床面積3万㎡以上、「大型ビル」は同1万㎡以上3万㎡未満、「中型ビル」は同5,000㎡以上1万㎡未満、「小型ビル」は同5,000㎡未満。
  3.「賃料水準」の「平均水準」は、三幸エステート(株)による2017年末時点の資料を基に設定。
  4.「物件利回り」は、NOI(Net Operatig Income、純収益)ベース。「物件利回り」の「平均水準」は、日本不動産研究所「不動産投資家調査」(2017年10月時点)の取引利回りを参照して設定。
  5.「東京都心3区」とは千代田区、中央区、港区。「東京圏」とは、東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県。
出所:みずほ証券

 試算結果によれば、CASBEE認証を受けたビルの賃料は、平均的なビルと比較して+12.8%と、かなり高かった。ビルの規模別で見ると、大規模ビル(延床面積3万㎡以上)が+3.7%、大型ビル(同1万㎡以上、3万㎡未満)が+4.2%、中型ビル(同5,000㎡以上、1万㎡未満)が+21.1%、小型ビル(同5,000㎡未満)が+34.0%だった。

 大規模ビルで両者の差が小さいのは、REITが保有する大規模ビルには、大口テナントが一括賃借して本社ビルなどに利用しているものが多く、管理費をテナントが負担するかわりに賃料が低く抑えられている例が多いことなどが影響している。また、小型ビルで両者の差が大きいのは、個人オーナーが保有する老朽ビルが、平均賃料を引き下げていることなどが要因と考えられる。

 物件利回り(賃料から管理コストなどを差し引いた純収益ベース)については、CASBEE認証を受けたビルは、平均的なビルと比較して+0.8%ポイントと、収益性が高かった。立地別に見ると、東京都心3区(千代田区、中央区、港区)が+0.9%ポイント、都心3区を除く23区が+0.7%ポイント、東京23区を除く東京圏が+0.3%ポイント、東京圏以外が+1.0%ポイントだった。前述した通り、REITが保有する大規模ビルには、契約形態が特殊で、賃料が低めに抑えられている例があるが、収益はきちんと確保されていると言える。

 賃料を決める要因は、環境性能だけではなく、立地条件、施設規模、設備グレード、築年数、管理状況など、様々な項目が関係している。しかし環境性能が優れているビルの多くは設備グレードが高く、管理状況も良好な場合が多いので、それぞれの要因は相互に関連性が高いと言える。本稿の試算はサンプル数が少なく(賃料水準については52物件、利回りについては60物件)、あくまでも参考にすぎないが、環境への対応は、「大家さん」にとって負担ではなく、メリットが大きいことをある程度は証明したと思われる。このようなメリットが広く認識されれば、ESG投資はさらに普及が加速すると考えられる。

石澤 卓志(いしざわ たかし)

1981年慶應義塾大学法学部卒、日本長期信用銀行入行。調査部などを経て長銀総合研究所主任研究員。1998年第一勧銀総合研究所で上席主任研究員。2001年みずほ証券に転じ、金融市場調査部チーフ不動産アナリスト。2014年7月から上級研究員。主な著書に「東京圏2000年のオフィスビル 需要・供給・展望」(東洋経済新報社 1987年)、「ウォーターフロントの再生 欧州・米国そして日本」(東洋経済新報社 1987年)、「東京問題の経済学(共著)」(東京大学出版会 1995年、日本不動産学会著作賞受賞)などがある。国土交通省「社会資本整備審議会」委員など省庁、団体などの委員歴多数。

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