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空前の積立投資ブームに乗り、持たざるリスク回避

経済アナリスト 田嶋智太郎氏

今年も「世界同時好況と低金利の併存」は続く...

 周知のとおり、昨年は世界同時好況と低金利が併存したことによって、まさに世界同時株高と呼べるにぎやかな展開を目の当たりにすることとなった。そのなかで、世界30カ国以上の株価指数が史上最高値を更新し、世界株の時価総額は1年で約15兆ドル(21%)増加して約84兆ドルに達したとされる。

 米国の主要な株価指数も軒並み大幅高を演じることとなり、NYダウ平均にいたっては、なんと年間で約70回も史上最高値を更新した。その一方で、ドルの相対的な価値を表すドル指数(ドルインデックス)は年間で約7%下落することとなり、その結果、新興国からの資本逃避も回避されることとなった。

 ある意味"いいところ取り"の「適温相場」などと言われる状況に恵まれたことによって、昨年は言わば必然的に世界同時株高が演出されたわけであるが、どうやら今年も相場を取り巻く環境自体は基本的にあまり大きく変わらないものと見られる。

 確かに、昨年目の当たりにされた「世界同時好況と低金利の併存」という現象は長い歴史のなかでは少々稀なケースということになるかもしれない。しかし、今回はそうした現象の恩恵に浴する時間が想定以上に長めのものになると思われる。それは、リーマン・ショックの痛手を負っていた時間(金融バブル崩壊後の景気後退局面)がかつてないほどに長かったからであり、そのために日米欧の中央銀行がかつてないほど大胆で大規模な資金供給の実施を余儀なくされたからである。

 なにしろ、いまや日米欧中銀の総資産は合計で約14.3兆ドルと、10年前の3.6倍にまで膨張しているのである。今さら言うまでもないことかもしれないが、その結果として世界的な好況や株高と低インフレ、低金利が共存する状態となっていることに実は不思議はないものと思われる。

 そもそも、相場というものは「投資家という人間の心理が一部司るもの」であるから、実際には「理屈」だけでなく「感情(心理)」という要素もそのメカニズムのなかへ大いに入り込んでいる。つまり、理屈では「好況になれば債券市場から株式市場への資金シフトが加速し、結果、金利上昇の傾向が強まる」などとなるが、感情では「そうはいっても過去の手痛い記憶も消えてはおらず、債券から完全に資金を引き上げるというわけにも行かない」などということになる。まして、足下にはかつてないほど潤沢(じゅんたく)なマネーがあり余っているので、債券は残したままで株式に資金を回すこともできる。良かれ悪しかれ、ビットコインなどの仮想通貨で膨らませたマネーの一部を株式市場に持ち込むケースなどもあるものと推察される。

 昨年9月、米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長は足下で見られるインフレの停滞について「ミステリーだ」と述べていたが、そうした感想こそがまさに経済学の「理屈」から発せられたものであると思われてならない。イエレン氏が世界でも指折りの経済学者であることは言をまたないが、昨今は「経済学の限界」というものが取り沙汰される機会も決して少なくはない。

 その意味では、ここにきて『行動経済学』というものがあらためて見直され、その分野の権威である米シカゴ大のリチャード・セイラー教授が2017年のノーベル経済学賞を受賞することとなったのも、まさに道理であると思われる。もちろん、投資家心理というものは話題の行動経済学をもってしても、そのすべてを説明することはできない。そして、そんな投資家心理と常に向き合いながら先々の政策の方向性を導き出して行くのが中央銀行であるということも実に興味深い事実である。

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