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長島聡の「和ノベーションで行こう!」

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108のアイデアから「唯一のデザイン」を生む

第11回 GK京都の榎本信之社長に聞く

ローランド・ベルガー 日本法人社長 長島 聡氏

長島 そうですね。先日、業務提携をさせていただきました。今後、共同で色々なプロジェクトを進めていきたいと思っています。少し話題を変えて、デザイナーの役割について、榎本社長はどのようにお考えですか。

デザインは五感と感情を司る仕事

榎本 人の五感と感情を司(つかさど)る仕事という風に定義しています。この形は優しい、この色は楽しい、この空間は落ち着くなど、人がモノを見たとき、触れたとき、どう感じるか。その着地点に向けて必要な物事を整理し、必要な人をつなぐ。そして、こんなモノ、コト、クウキに包まれれば幸せになれるという人々の夢に貢献することではないかと考えています。

長島 ビジネスの観点ではどうでしょう。特に製造業に対して。

榎本 デザインはクライアントなくして成立しません。製造業とは運命共同体です。私が目指しているのは、単発的に大ヒットする商品を生むことよりも、クライアントが良いデザインを生み続けられるシステム作り。その環境をいかに整備し、価値を共有できるか。そこまで含めてデザインだと思っています。最近は日本企業の間でも、英語本来の意味でのDesignの概念が共有されつつあるように感じます。

長島 製品や建築物をデザインするとき、どの場面まで想像して作業をするのでしょう。作るとき、売るとき、買うとき、使うとき、色々ありますが。

榎本 対象となるモノがメーンに使われるシーンのイメージを強く持つようにしています。モノとしての魅力を高めるには、メッセージは複雑ではない方がいいと思うからです。メーンのシチュエーションが第一であり、それ以外の要素は入れない。ただし、例外もあります。その製品がエコロジカルな場合、それをイメージさせる背景の要素も入れることがありますね。

長島 多くの製造業は、そのメッセージを絞り切れていないように見えます。価値観が多様化するなかで、何をどこまでやればよいのか迷っている。私は製造業にはリフレームが必要だと思っています。「強いものづくり」の成功体験という枠を取っ払い、視野を広げる。硬直化した思考をどうほぐしていくか。冒頭に話した「108つのアイデア出し」も、その解決策の1つになるように思います。

榎本 人間の煩悩の数に引っかけて108つと言っています。プロジェクトの上流での調査や情報収集、それを基にしたアイデア出しの段階では、とにかく数が勝負です。そして、そのアイデアを絵にする。この能力はデザイナーにとって非常に重要です。言葉と絵では情報量がまったく違います。ダイハツの谷本さんとのプロジェクトでは108つのアイデアをすべて絵にしました。絵にすると、今まで見えていなかったモノが見えてくる。

長島 10くらいなら出せそうですが、108は途方もない数ですよね。特に、我々コンサルタントはロジックで物事を考えるクセが付いていて、なかなか抜けられません。

榎本 突き詰めると、我を捨てることかなと思います。ラッキョウの皮のように、むいて、むいて、むききれないところに本当の答えがある。例えば、1日で30個、40個のアイデアを出せという。出してきたら、じゃあその調子でもう一度ゼロから考えようかと(笑)。脳みそが疲れ果てて、無の境地に至る頃に、ふと思いがけないアイデアが浮かぶ。自分の意思で考えているうちはダメですね。あまりロジカルな話じゃないですが(笑)。

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