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英国海兵隊に学ぶリスクマネジメント

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森友・加計問題...忖度は戦場なら悲劇

マッキニーロジャーズ アジア太平洋代表パートナー 岩本仁氏

ミッションへの忖度なら組織に有効

イラク北部のクルド人地域は急峻な山岳地帯が多く作戦には困難が伴う イラク北部のクルド人地域は急峻な山岳地帯が多く作戦には困難が伴う

 ところで忖度はどんなケースでも害なのだろうか。ここまで論じて来たように、人(上司)の考えや感情を忖度して行動すると、間違いにつながりやすいのは確か。だが組織のミッション(任務)を忖度して行動することは軍隊でも企業でも必要だ。

 では、ミッションへの忖度とはどういったケースを指すのか。マッキニーロジャーズの創設者、ダミアン・マッキニーが1990年代の湾岸戦争後にイラクで部隊を指揮した際のエピソードを紹介したい。

 当時、トルコ南部に駐留する英国海兵隊将校だったダミアンに、イラク北部山岳地帯のクルド難民24万人の難民キャンプ移送が命じられた。ダミアンに難民移送の経験はなかった。配下の部隊はたった150人。24万人という規模に、普通の人間なら途方に暮れてしまいそうだが、ダミアンは冷静だった。

 すぐに部下を集めた。「クルド難民24万人を安全なキャンプに移送する。24時間以内に出発できるように準備すること。5時間後にミーティングを開く」。簡潔に指示を出し、自らはヘリコプターに飛び乗った。現地上空を飛び、何が必要か思考を巡らせたのだ。食料、水、テント、医療の確保など思いついたミッションを無線で明確に指示する。

 ダミアンがミーティング前に基地へ戻ると、積み荷を乗せたトラックが並んでいた。部下が「テントを調達した」と言う。別の部下は「物資を輸送するヘリの準備が整った」と報告する。部下たちはダミアンの無線指示に基づき、自ら動き始めていたのだ。出発前のミーティングでは既に多くの情報が部下を通じて集まった。

 また、ダミアンが不足する医療スタッフを確保するため外部に支援を求めた結果、ルクセンブルク軍や国境なき医師団が協力。ここでもミッションを共有し、自律的に医師・看護師を確保してもらうことができた。

 ダミアンは命令で指定された1カ月以内に作戦を成功させた。「24万人の難民移送」に向けて簡潔なミッションを共有していたから、細かな管理をしなくても部下がスピーディーに動いた。彼らは重要な局面で指示待ちになることなく自ら判断している。与えられたミッションを忖度した結果とも言える。それが正しく機能したのは、ダミアンがミッションと同時に守るべき制約も明示していたため、部下が迷うことがなかったからだ。

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