日本経済新聞 関連サイト

経営トップのための"法律オンチ"脱却講座

記事一覧

ケース36:痴漢で逮捕は「退職金なしで懲戒解雇」?

弁護士・ニューヨーク州弁護士 畑中 鉄丸 氏

今回の悩める経営者:株主会社カソリーヌ 代表取締役社長 山岡やまおかしおり   (43歳)
相談内容

 先生、こんな破廉恥な事件、絶対許せません!

 先生もご存知のとおり、我が社は若い女性向けに、ファッションやグルメやイベントや旅行といった、最先端のキラキラした都会的なライフスタイルを紹介したり、提案したりするサイトビジネスをしております。若い女性は我が社の最重要顧客層なんです。それがよりにもよって、ウチの幹部社員が、痴漢で捕まったんです。

 創業すぐの頃に中途で入ってきた、細田という社員なんですが、仕事はできるし、何事にも前向きで、出張のときも一緒についてきて、秘書役というか雑用をテキパキこなしてくれ、まあ、役に立ついい社員なんです。

 ところが先週、無断欠勤して、何かあったのか、と心配していたら、彼の弁護士についた江良野(えらの)、という人から電話があり、通勤時に痴漢をはたらいたとかで、捕まって留置場にいる、って連絡がありました。どこで嗅ぎつけたのか、新聞に出てしまって、その後は、ネットの掲示板も大騒ぎです。新聞では痴漢した事実は認めているって話で、もう最悪です。

 謝罪やら説明やら対応に追われ、ホント、仕事になりません。

 こんなの、懲戒解雇だし、退職金はおろか今月の給料だって払いたくないし、もっと言えばこちらから損害賠償してやりたいくらいです。

 でね、昨日その江良野弁護士が来て、今後のことについて、いろいろ話をしたい、ということを言い出すんです。江良野弁護士によると、細田は、当初自白させられたが、今回はやっていない、と言っているそうなんです。

 今回は、ってことですが、実は、何回か痴漢でしょっぴかれている経験もあるそうで、その度に、証拠がない、弁護士呼ぶ、といってうまく言い逃れしてかいくぐってきたんだそうです。ただ、今回はがっちり手を掴まれて、その周りには女性しかいなかったせいか、観念したらしく当初は土下座して詫びていた。

 ところが江良野弁護士と連絡がついてから強気になって、自白を撤回して「自白強要だ、冤罪(えんざい)だ、裁判で徹底的に争う」という態度だそうなんです。

 ま、それが本当かどうかはさておき、江良野弁護士の話ですと、解雇とか退職とかありえない、というか、会社を辞める気はさらさらない、ってことなんです。

 ただ捕まっていて、今は会社には来れないので、年休を消化し、保釈なり次第復帰します。もし勾留とか長引くようであれば、欠勤扱いにしといてもいいので、よろしく、ってことなんです。

 何の冗談ですか?!

 彼は、復帰したら定年まで勤めるつもりで、退職金もしっかりもらう、とか言い出すもんですから、「何をバカなことを言ってんの! 懲戒解雇だし、退職金もなしに決まっているでしょ!」と言い返したら、江良野弁護士は、「そんなことできるわけないでしょ」と薄ら笑い。

 そのうち、江良野弁護士は、「とはいえ、こちらも今後裁判を戦う上で、カネに困っているので、退職金相当額とはいいませんが、少し色を付けたカネをくれるなら、退職に同意してやってもいい」なんて上から目線でありえない提案をしてくる始末。話がまったく噛み合わないから、物別れです。というか、もう話したくない。

 明日付けで、懲戒解雇をして、退職金も払いません。

 これで、いいですわよね。先生!?

PICKUP[PR]