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石澤卓志の「新・都市論」

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「2022年問題」より深刻な都市のスポンジ化

みずほ証券 上級研究員 石澤 卓志氏

住宅地より、利用できない土地が増える方が問題

 「2022年問題」は、農地が宅地化すると「住宅地が供給過剰になる」懸念であるが、その一方で「利用できない土地の増加」が深刻化している。この問題は、都市の密度が低下することから「都市のスポンジ化」などと呼ばれている。

 2017年10月26日に「所有者不明土地問題研究会」(座長:増田寛也元総務相)が公表した資料では、所有者不明によって有効活用できない土地による経済損失が2016年で約1,800億円に上り、このまま放置すれば2017年~2040年の累計で6兆円に達するとの予測が示された。

 同研究会の推計によれば、所有者不明の土地は2016年時点で約410万ha(九州の面積368万haに相当)だったが、2020年~2040年に発生する土地相続のうち27%~29%が未登記となる可能性があり、2040年には720万ha(北海道本島の面積780万㎡に相当)に拡大する。

 所有者不明の土地が生じる要因はさまざまであるが、登記簿の不備による部分が大きい。売買や相続によって土地所有者となった場合、登記しなければ第三者に対して権利を主張できないが、登記は法律上の義務ではない。登記には費用や手間がかかるため、登記を行わない所有者も多い。

 国土交通省が2016年度地籍調査において土地所有者等(所有者の他、利害人、代理人を含む)を調べた結果では、登記簿によって所在を確認できた比率は79.9%にとどまり、残りの20.1%は、所有権移転や住所変更が未登記だった(図表4)。

図表4:登記簿等による土地所有者確認の状況 注:1.①は、国土交通省が2016年度に、地籍調査を実施した1,130地区(558市区町村)について、土地所有者等(土地の所有者、その他の利害人、またはこれらの代理人)を調査した結果。構成比は筆ベース。<br>

  2. ②は、15地区13市町(登記約16,000個)で、地籍調査における土地所有者等の所在確認を実施し、登記経過年数(所有権に関する最後の登記から経過した年数)と、不明率(登記簿上で所有者等の所在を確認できなかった構成比)の関係を集計したもの。<br>

  不明率=(追跡調査で所在確認+所在不明)÷(登記簿上で所在確認+追跡調査で所在確認+所在不明)<br>

出所:国土交通省 注:1.①は、国土交通省が2016年度に、地籍調査を実施した1,130地区(558市区町村)について、土地所有者等(土地の所有者、その他の利害人、またはこれらの代理人)を調査した結果。構成比は筆ベース。
  2. ②は、15地区13市町(登記約16,000個)で、地籍調査における土地所有者等の所在確認を実施し、登記経過年数(所有権に関する最後の登記から経過した年数)と、不明率(登記簿上で所有者等の所在を確認できなかった構成比)の関係を集計したもの。
  不明率=(追跡調査で所在確認+所在不明)÷(登記簿上で所在確認+追跡調査で所在確認+所在不明)
出所:国土交通省

 この調査では、未登記の事例について、戸籍や住民票などによって追跡調査を行った結果、土地所有者等が所在不明の構成比は0.41%に低下した。しかし、登記が古いまま長期間放置されていると、所有者等の確認は困難になる。国土交通省によれば、所有権の最後の登記からの経過年数が29年以下の場合、登記簿上で所有権者等の所在を確認できなかった不明率(その後の追跡調査によって所在を確認できたものを含む)は20.6%だったが、経過年数が50年~69年では62.4%に上昇し、70年以上では80%近くに達した。

 所有者不明土地の問題に対応するために、国土交通省は2017年10月から「国土審議会土地政策分科会」の特別部会などで検討を始めた。この中では、固定資産税課税台帳を所有者探索に利用することなどが考えられている。また、法務省も10月に「登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会」を立ち上げ、登録免許税の免除による相続登記の促進などを検討している。

 やや極端な表現をすれば、「2020年問題」は「住宅地が増えすぎる」問題、所有者不明土地は「住宅地などに利用できない」問題なので、真逆の内容のように感じられる。しかし、住宅用地に適さない農地が多いことなどを考慮すると、「利用できない土地が多い」点で共通の部分がある。

 これらの問題は、土地に対する社会的なニーズが変化するなかで、土地所有者等の権利保護に関する制度が硬直化していることから生じている部分が大きいように思われる。今後は、公益的な視点から、土地所有の在り方を見直す必要性が高まってくると予想される。

石澤 卓志(いしざわ たかし)

1981年慶應義塾大学法学部卒、日本長期信用銀行入行。調査部などを経て長銀総合研究所主任研究員。1998年第一勧銀総合研究所で上席主任研究員。2001年みずほ証券に転じ、金融市場調査部チーフ不動産アナリスト。2014年7月から上級研究員。主な著書に「東京圏2000年のオフィスビル 需要・供給・展望」(東洋経済新報社 1987年)、「ウォーターフロントの再生 欧州・米国そして日本」(東洋経済新報社 1987年)、「東京問題の経済学(共著)」(東京大学出版会 1995年、日本不動産学会著作賞受賞)などがある。国土交通省「社会資本整備審議会」委員など省庁、団体などの委員歴多数。

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