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古川修の次世代自動車技術展望

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最終ゴールは「交通事故ゼロ化」

芝浦工業大学 特任教授 古川 修 氏

 では、技術的な観点から自動運転技術開発の現状を見てみよう。自動運転車の実用化へ向けた開発は、実際のところ進んでいるのかといえば、答えは「ノー」だ。現在は、レベル3の自動運転は実用化が極めて困難であるという予測が、机上の考察だけではなく、ドライビングシミュレーターなどを用いた研究結果も散見されるようになっている。

 国内の自動運転にかかわる産官学の国家規模のプロジェクトでも、自動運転のゴールをどのレベルのどのような走行条件とするのかは、明快な結論がなかなか得られていないように見える。そのプロジェクトチームでは工夫と努力を重ねて、精力的に活動を行っているにもかかわらずにだ。

 このような状況になっている理由は何か。それは、自動運転技術のゴールを「完全自動運転」と設定し、そこに至るロードマップを、自動化のレベルの段階に沿った考え方にしているからである。そこには検討課題として不足しているものがある。それは、実用化したときの社会ニーズとリスクを明確にするアセスメント評価である。

 これまでも指摘してきたように、たとえ「完全自動運転」が高速道路上で実用化されたとしても、交通安全上のメリットは少ない。高速道路での交通事故は一般道路に比べればほんの僅かであるからだ。

 自動運転の実用化のゴール設定には、各自動運転レベルとODD(Operational Design Domain:自動運転が機能すると設計した領域)の組み合わせにおいて、社会ニーズ、ドライバーにとってのありがたみなどの利益と、自動運転によるリスクやコストなどの不利益を予測して、それらを総合的に評価するアセスメントが必要であると考えられる。

 さらに、国内外の自動運転の大規模プロジェクト開発に共通にいえることであるが、最終ゴール設定とそこに至るロードマップの大幅な見直しが必要だと考える。「完全自動運転」という言葉は、一見夢のクルマ社会を提供するように感じられて、誰も疑問に思わないのかもしれないが、自動運転技術というのは単なる手段であり、それが人類へのありがたみへどうつながるか分かりにくい。

 私が提案する最終ゴールは、「交通事故ゼロ化」である。これこそ、社会ニーズとして自動車交通社会の中でぜひ実現したい人類の夢といえる。WHO(世界保健機構)の統計によれば、全世界で1年間に120万人が自動車交通事故で亡くなっているという。これは、世界最大の航空機エアバスA380が毎日5~8機も墜落事故を起こすことと同等の死亡者数である。このように、死亡事故はもちろんのこと、自動車交通事故を減らすことは全世界で大きな社会課題となっている。

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